チャンネル登録者数270万超の人気ユーチューバー・ワタナベマホトに「文春砲」炸裂――。「文春オンライン」6月19日付記事が、ワタナベマホトが酒に酔い、自宅で同居する女性に暴行を加え、傷害容疑で逮捕されていたことを報じた。ワタナベマホトは「YouTube」で謝罪動画を公開し、記事の内容を認め活動を休止することを発表した。
謝罪動画では、それまで氏が投稿していた動画でのラフな服装と違い、スーツ姿になっている。当記事では、スーツ着こなし指南本『できる男になりたいなら、鏡を見ることから始めなさい。』(CCCメディアハウス)の著者という立場から、服装を中心にワタナベマホトの謝罪を読み解いていきたい。
欠落していた重要なアイテム
ワタナベマホトの謝罪の内容自体は問題なかったように思える。「視聴者、関係者への謝罪」「被害者とは和解となっている」「しばらく活動休止する」「相手の方の非難や無関係の方が巻き込まれないよう、批判は自分にしてほしい」と過不足ない。
特に今回、被害者である交際女性もユーチューバーであるとされており、ネット上は特定に沸いている。よって、「相手の方の非難や無関係の方が巻き込まれないよう、批判は自分にしてほしい」は、時にまったく無関係な人間が“特定班”に誤認され、拡散、炎上してしまうことも多い、ネット時代ならではの対応だ。
内容に問題はないのだが、だからこそ思うのは「家にネクタイはなかったのだろうか」という一点だ。ワタナベマホトの謝罪動画は「スーツにノータイ」なのだ。
謝罪会見の服装は、「葬式」に寄せると間違いない。以前、TOKIOの元メンバー・山口達也氏が酒に酔い未成年への強制わいせつ容疑で書類送検されたとき、残り4人のメンバーが謝罪会見を行ったが、そのときの服装はとても「葬式的」だった。別に悪いことをした当人ではないのだから、そこまで重々しく謝らなくても、とは思ったが。
「葬式」を基準に見ると、ワタナベマホトの服装はスーツの色がだいぶ明るめのグレーなのも印象として損をしているが、それ以前に問題なのは「ネクタイをしていない」ことだ。家にあるネクタイがみな派手だったのか、そもそも家にネクタイがなかったのか。
また、ワイシャツのボタンは上まで閉じている。クールビズでよくやっている人がいるように、一番上のボタンを開けたら「謝罪なのにラフに見える」という思いがあって、上までワイシャツのボタンを留めたのだろうと思う。確かにその判断は間違っていないが、上までボタンを留めたワイシャツはリクルートスーツの女子学生のようであり、そもそもネクタイをするのが正解だったのだ。
誰だって、謝罪するときは「つつがなく」済ませたいはずだ。「つつがなく」するためには、余計なノイズを入れないことが大切だ。以前の記事で、NGT48の運営会社であるAKS・松村匠氏の会見時の問題点について指摘したことがある。山口真帆に対する暴行事件を受けての謝罪会見だったが、松村氏のいかつい腕時計が目立っていた。「いかつい腕時計をしている(トゥーマッチ)」も「ネクタイがない(必要なものがない)」は、どちらもノイズになる。「葬式」にいかつい腕時計をしないし、ネクタイを締めずに葬式に行けば、まわりはギョッとするはずだ。
ちなみに、同じく有名ユーチューバーであるヒカルは2017年に仮想株式「VALU」の騒動で謝罪動画を公開したが、その際はスーツにネクタイをしている(ただし、「原稿の読み上げ」になっているのはいただけないが)。
なお、ここからは個人的な意見になるが、謝罪はあくまで謝罪であり、葬式ではないのだから、葬式のような真っ黒なブラックフォーマルに真っ黒なネクタイまで重々しくする必要はないと思っている。だが、明るい色のスーツや柄に目がいくようなネクタイはまずい。謝罪時に備え、すべてのビジネスパーソンは「黒に近い紺か灰色」のスーツとネクタイを用意しておくことを勧めたい。「黒に近い紺か灰色のスーツとネクタイ」は、普段の生活でも問題なく使える。
「非スーツ」の30代文化人が急増
今、メディアアーティストの落合陽一氏、幻冬舎の箕輪厚介氏、SHOWROOM社長の前田裕二氏など、芸能人でなく「文化人、実業家枠」でテレビに出ている30代の男性を見ると、服装がラフだ。彼らが「スタンダードなスーツ」を着ているのを見た記憶がない。
このような成功したきらめく若手世代が、「スーツを着る」という既存の枠組みを「もたない」「ダサい」と思っての「非スーツ」のチョイスであるならば、あらためて日本の衰えを思う。昔から、若手ミュージシャンの歌には「ネクタイをする大人」を悪者にするようなものがあったが、いよいよそれが加速している印象だ。
しかし、こういった若手の「非スーツ」な切れ者たちに憧れるのはいいが、それとは別に「スタンダードなスーツ」の着方は、絶対に知っておいたほうがいい。そもそも、落合氏は学者、箕輪氏は編集者、前田氏はIT企業の社長と、服装がかなり自由な職種の人たちであり、これは一般ビジネスパーソンのスタンダードではない。
それに、「何かやらかしたとき」は、やはり「スタンダードなスーツ」を着る必要があるのだ。世界的な「俺はネクタイなんてしないぜ社長」であるフェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグ氏は普段はTシャツ姿だが、フェイスブックがフェイクニュースの温床になっていると批判され、米上院公聴会で証言した際は、スタンダードなスーツ姿だった。
この「必要に応じ、チャンネルを変える」という意識は、場数が少ない若い世代ほど弱い。そのため、そうした意識を持ち実践するだけで、周囲の同世代と差をつけることができるだろう。
(文=石徹白未亜/ライター)
『できる男になりたいなら、鏡を見ることから始めなさい。 会話術を磨く前に知っておきたい、ビジネスマンのスーツ術』 「使えそうにないな」という烙印をおされるのも、「なんだかできそうな奴だ」と好印象を与えられるのも、すべてはスーツ次第!