アイリスオーヤマの「Bluetoothスピーカー搭載LEDシーリングライト」をめぐり、「隣の家などから勝手に接続され音楽を流される」との不具合が報告されていた。商品を購入したあるTwitterユーザーは、寝ている間に勝手に音楽が流れてくる被害に遭い、仕方なくスピーカーを外したと不満をツイート。これに対して、「これは怖い」「やばすぎる」と4万件のいいね、2万件のリツイートという反響があった。
同社は9月30日、販売していた同製品について謝罪し、当サイトの取材に対しても不具合の事実を認めた。ただ、消費者からの問い合わせや相談の数については「回答を差し控える」(広報室)とのこと。また、返品を希望する人がいる場合の対応を聞いたが、「現段階で返品対応は検討していない」との回答だった。
問題の製品は、今年1月に発売したシーリングライトで、スマートフォンなどとBluetooth(ブルートゥース)接続し、天井から音楽を流すことができるものだ。8畳用と12畳用の2種類がある。
Bluetoothは、無線通信の規格のひとつで、スマホやPCなど多くのデジタル機器に内蔵された機能だ。気づかないうちに使っている人も多いだろう。もっとも馴染みがある製品といえば、Bluetoothイヤホンかもしれない。カバンに入れたスマホからワイヤレスで音楽データを送信し、それをイヤホンで聞くものだ。
Bluetoothで対応した機器同士は、ケーブルなどを接続しなくてもデータをやり取りできる。有効範囲はおよそ10m以内。国際標準規格のため、対応機器なら各国のどんなメーカー同士でも接続可能だ。
この10mというのが微妙な近距離で、アイリスオーヤマのシーリングライトは、アパートやマンションなどで壁をはさんで隣人のスマホによる音楽を拾ってしまったわけだ。ただ、Bluetooth機器を使うときは通常、最初に機器同士を認識させる「ペアリング」を行う。ペアリングを行っていない隣人のスマホと勝手に同期してしまうのでは、ペアリングという操作自体が無意味になってしまう。
アイリスオーヤマは消費者からの問い合わせには次のように釈明している。
「端末と機器がすでに接続中の状態であれば、別の端末が接続されることはありません。ただし、接続していない状態の場合は、半径10m以内のBluetoothがONの状態になっている他の端末と接続する可能性があります。万が一、他の端末と接続してしまった場合は、リモコンではなく、照明機器の元電源(壁スイッチ)をオフにするようお願いしています」(広報室)
なお、同社は同製品にペアリング制御機能を実装していないことを認め、「機能追加を検討している」とコメントしているが、SNS上には「昨日流れてきた音は『DMM.com〜♪』というCMだった」との声もみられ、ぐっすり寝ている夜中に天井から“不適切な声”が大音量で急に流れてくる危険もあるのだ。
「なるほど家電」でおなじみ
さて、戦後の高度成長期に家電王国となった日本だが、東芝やシャープなど次々と多くの大手メーカーが家電分野から撤退していった。その間隙を縫うように成長していったのがアイリスオーヤマだ。同社は「なるほど家電」を標榜しており、同社製品はシンプルで使いやすくリーズナブルな価格帯に加え、他のメーカーにはない便利機能を搭載している。「カロリー計算できる炊飯器」や「静電モップ付きスティッククリーナー」などが代表例だろう。2005年から家電販売をスタートしているが、開発に力を入れ始めたのは、09年のLED電球の発売からだ。
従来の大手家電メーカーは仕様などの確認などでかなり細かな確認作業のプロセスを経てから発売に漕ぎ着ける。しかし、同社はそこまでせずに商品化できるスピード感が持ち味だといわれている。その身軽さがなければ「なるほど家電」のヒット商品も企業としての快進撃もなかったかもしれない。ネットには今回の不具合で同社を非難する声も多数あるが、失敗を教訓にして、次の新しい商品開発に期待したい。
(文=横山渉/ジャーナリスト)