この当たりはさすがに予算があるドコモがダントツで、ユーザーが多いから人口密度が低いところに設置してもそれなりに投資効果は出る。この点ではソフトバンクはかなり立ち遅れている。
一方、都市部では基地局数が多い上に過密なため、むやみに基地局を増やすと今度は基地局同士が干渉しあってかえって品質を下げる。そのため測定器で実際の電波状況を調べながらチューニングを行う。逆に電波が飛びすぎて干渉する場合などはアンテナの角度を綿密に調整し、最適化を行っていくのだそうだ。その最適化も、最近のアンテナは現地に行かなくてもネットワークオペレーションセンターがコマンドを打ち込んで、遠隔で角度や方向を調整できるようになっている。
そして第3段階では地下やビルの陰など、さらに詳細に電波の弱い場所を増強していく作業となる。例えば、東京・秋葉原の駅前のビルや路地裏の上には、その場所だけを狙ったアンテナがある。このように、大きな基地局の死角をカバーしている場所は意外と多い。
●キャリア間の垣根を越えた取り組みにも注目
このようなキャリア独自の取り組みと共に注目したいのが、「キャリア間の垣根を越えたインフラの整備」(中野氏)だ。代表的なものとしては、ビル内に設備として設置するアンテナだ。例えば、ビルの8階以上になると電波の入り具合が悪くなるため、ビル屋内に基地局となるアンテナを設置するのだ。
キャリアの顧客である大型ビルが中心だが、ビル一棟を工事すると1~2億円以上と莫大なお金がかかる。しかも、基地局はキャリアが設置すべきもので、その費用は原則、キャリア持ちだ。このため、公共性の高い施設を優先的に工事するのだ。
しかし、あまり大きなビルだと費用面でおいそれとできず、1つのキャリアの電波だけが入っても意味がない。そこで、3キャリアが合同でアンテナの設置を行うことがあるという。例えば東京・秋葉原の大型ビルの1つ、UDXビルは全キャリアが合同でアンテナを設置したため、合理的に工事が進められ、ビル内でも快適に通信ができるようになった。
また、最近では地下鉄路線や新幹線のトンネル内でも電波が入るようになったが、この事業は「公益社団法人 移動通信基盤整備協会」(通称:トンネル協会)が行っているのだと中野氏は言う。トンネル協会は地下鉄や高速道路などのトンネル内にアンテナを設置する事業をとりまとめる組織で、キャリア各社がお金を出し合って共同の設備をつくっている。