面白いところだと、山間部や僻地のエリア展開がある。利用者がいるといっても1億円もかけて鉄塔を建てるのは割が合わないのは各社同じ。そのような場合は、先に設置したキャリアの鉄塔を借りることがある。例えばソフトバンクがドコモの鉄塔を借りたり、ドコモがauの鉄塔を借りたりという具合だ。中には各社相乗り鉄塔も存在している。お互いライバルは潰したいわけだが、「困った時はお互い様」の精神でやっている。
このように、表向きにはキャリア同士がお互いに自社の通信品質を競っているだけのように見えるが、公共性の高い施設はキャリア同士が協力しながら、キャリア間の垣根を越えてインフラを整備していることにも注目したい。
「やはり、キャリア最大手のNTTドコモは予算を持っているので、地方の集落やビル内基地局の設置などの屋内対策については、後発のauやソフトバンクはかなわないでしょう。それに、KDDIもソフトバンクも基地局とネットワークセンターとの光ファイバー接続に、一部はNTTの光ファイバーを使っているという現実もあります。双方ともインフラ増強をしっかりやっており、今後はさらに品質は向上するでしょう」(中野氏)
●実際どのキャリアを選ぶべきなのか?
それでは、実際どのキャリアを選ぶべきなのだろうか。また、そのポイントはどこにあるのだろうか。
中野氏は「基地局や周波数で判断するのは間違い。キャリアが提供する付加サービスなど、総合的に判断することが大事だ」と明かす。ユーザーが最もよく利用する場所で最も快適に使えるキャリアを選ぶ、というのも重要だ。人口カバー率を気にする人が多いが、一生に一度行くところがエリアであるのと、毎日移動している場所が快適に利用できること、どちらが重要かだ。
これは実機がないと判断できないが、可能なら知人などのiPhoneを借りて実際に普段使う時間帯に試してみるという手もある。また、「ジャパモエ」(http://www.japaemo.com)のように各キャリア対応のiPhoneレンタルサービスを活用することも可能だ。
このほかにも重要なのが、ユーザーサポートの質だ。
「KDDIは富士通のARROW Zというスマートフォンを販売しましたが、1日に30回くらい電源が落ちるというとんでもないトラブルが発生しました。しかし、カスタマーセンターはユーザーからの問い合わせに対し『わからない』と応えるばかりでした。この事件をきっかけにKDDIはサポート体制を改善しつつあるようですが、私も社員として非常に怒りを感じました」(中野氏)
確かに、年々複雑化、高機能化し、単なる音声通話ができる端末ではないiPhoneやスマホは、現実問題として、キャリアのサポート能力を超えていて、各キャリアの課題となっている。しかし、巷の評判を聞いて、サポートがしっかりしているところを選ぶのも重要だろう。
冒頭でも触れたように、アップルがSIMフリー版iPhoneの販売を開始したことで、ユーザーはSIMだけを購入できるようになった上、自社では回線網を持たずに、他の通信キャリアから回線網を借りて自社ブランドで通信サービスを行うMVNO(仮想移動体通信事業)の安いサービスも利用できるようになった。格安プランで有名な「b-moble」のSIMも利用でき、今後はさらに競争が激化するのは必至だ。
キャリアのいかにも「まともそう」な宣伝に惑わされず、ユーザーそれぞれのニーズや環境に最適な事業者を選びたいものだ。
(文=池田冬彦/ライター)