買収合戦の口火を切ったのは楽天だった。3月、9億ドル(約900億円)を投じバイバーの発行済み株式を全株取得。新株発行分も引き受ける。バイバーが手掛けるアプリには、世界193カ国で3億人の利用者がおり、買収により楽天のサービス利用者は世界で5億人になる。楽天の三木谷浩史社長はこれを10~20億人にまで増やすことを目指している。ちなみにバイバーは登記上の本社はキプロスだが、実際はイスラエルの会社で12年3月に設立されたばかりだ。13年12月期決算の売上高は1億5000万円、当期損益は29億円の赤字、純資産は74億円のマイナスのため、買収発表を受け楽天の株価は下落した。赤字の理由としては、3億人の利用者がいても収入モデルが確立されていないと指摘されているが、楽天はバイバーの無料通信アプリを利用して、ゲームやビデオストリーミング、電子書籍などを提供するとしている。つまり、無料通信アプリを入り口に自社のサービスで稼ぐという戦略を描く。
●「アドレス帳」で爆発的に成長したワッツアップ
フェイスブックは、190億ドル(約1兆9000億円)を投じワッツアップを買収する。ワッツアップの利用者は4億5000万人を超え、買収額はIT業界では過去最大だ。フェイスブックは現金40億ドルと120億ドル相当の自社株を割り当ててワッツアップを買収し、その後、4年間にわたってワッツアップの創業者や従業員に30億ドル相当のフェイスブック株を割り当て、14年後半の買収完了を目指す。
ワッツアップは09年に設立された、32人の技術者で運営されている小さなベンチャー企業だ。サービス開始から4年足らずで爆発的な成長を遂げ、ユーザーの23%弱に当たる1億人は過去4カ月間にアプリを使い始めたばかりの新規ユーザーだ。
急成長した秘密は、スマホの「アドレス帳」にある。ユーザーがスマホにワッツアップのアプリをダウンロードして起動すると、「ワッツアップが連絡先へのアクセスを求めています」と表示される。「OK」を選択すると数秒でスマホのアドレス帳に登録された家族や友人らの情報が取り込まれ、画面上に表示される。ワッツアップのアプリをすでに利用している人の名前の下には、チャット(対話)できる状態を示すサインが出るという仕組みで、欧州や中南米で圧倒的なシェアを誇っている。
ワッツアップの「広告なし・ゲームなし・仕掛けなし」との方針は徹底しており、アプリ内広告は一切ないが、その代わり定額課金制を導入した。ユーザーは最初の1年間は無料でサービスを利用できるが、その後は年間1ドルの定額課金が始まる。4億5000万人のユーザーがいるから、課金収入は単純計算で4億5000万ドル(約450億円)になる。「ワッツアップがフェイスブックを脅かす存在になるのは時間の問題」との声がアナリストから上がっていたため、フェイスブックは先手を打ってワッツアップを買収したわけだ。