6月6日付日本経済新聞記事によると、ネスレ・インディアはマギー20万パックの自主回収を決定したことに関しネスレのポール・ブルケ最高経営責任者(CEO)は「目先のビジネスより消費者の信頼回復が重要。自主回収の決定を支持する」と表明した上で、「たんぱく質など、外部から調達する原材料にMSG(グルタミン酸ナトリウム)が含まれているが、当社では加えていない」「検査方法を共有してほしい。鉛も許容水準内だ」などと、インド政府を批判しました。
ところで、現地のニュースと日本における報道では、化学調味料に関して大きな違いがあります。現地ニュースでは、「マギーは化学調味料無添加と表示されているのに、化学調味料であるMSGが添加されているのは不当表示になる」と伝えています。一方、日本ではおおむね、「許容量を超えるMSGが見つかった」と報じられており、現在MSGの許容量は国際的に規定されていないため、表現が適切ではないように思われます。
MSGは、ネズミによる実験で幼体の視床下部などへの悪影響が指摘されている食品添加物です。また、中華料理を食べた人が頭痛、顔面紅潮、体の痺れなどを起こす中華料理症候群の原因と考えられています。こうした毒性の指摘が出たことから、1974年にFAO(国連食糧農業機関)/WHO(世界保健機関)合同食品添加物専門家会議(JECFA)は、MSGの一日摂取許容量(ADI)を体重1kgにつき120mgとしました。つまり、体重50kgの人で6gとなります。しかし、JECFAのその後の追試により、通常の食生活でMSGを摂取する限り、中華料理症候群や幼い子の視床下部への悪影響は認められないとして、87年にMSGのADIは撤廃されました。
要するに、現在MSGは無制限に使える食品添加物となっています。ラーメン店によっては、小さじ一杯程度のMSGを入れているところもあります。小さじ一杯は塩換算で6gです。以前の基準に当てはめると、そのラーメン一杯でADIに達するほどです。しかし基準が撤廃された今日では、MSGは多くの食品で無制限に添加されています。
MSGについては、ADIを再設定すべきです。MSGの危険性は中華料理症候群、幼体の視床下部への悪影響だけではありません。72年に厚生省(当時)は、MSGが精神異常につながる上半身感覚異常を起こす危険に関し、全国の保健所に通達を出しています。現在においても、異常な少年犯罪とMSGの関連はまったく未解明のままです。
また、2002年に弘前大学医学部の研究チームは、ラットの実験でMSGの過剰摂取が緑内障につながる恐れがあると指摘しています。緑内障は日本における失明の最大原因です。
いずれにせよ、インドのインスタントラーメン回収命令は、MSGの無制限な使用実態に警鐘を鳴らすことになったのは間違いありません。
(文=郡司和夫/食品ジャーナリスト)