最初は、今年1月の総選挙だ。国民の不満の高まりを見て取ったチプラス氏は、パパデモス政権時代にギリシャが受け入れた緊縮財政の見直しを迫る姿勢を鮮明にすることで、過半数近い議席を獲得、第1党に躍り出て政権を掌中にした。そして、緊縮策の断行を求めるEUなどに対し、債務減免を柱とした大幅な支援の拡充を要求、債権国側と激しく対立するようになった。
ギリシャの資金繰りが懸念される中で翌2月、EUなどは暫定的に同月末に期限が切れることになっていた第2次金融支援の4カ月延長を決めた。中身は、ギリシャが改革を断行することを条件に、支援の基本的な枠組みを維持するというものだ。しかし、チプラス政権は最低賃金の引き上げや公務員の復職といった主張を取り下げず、火種を残すことになった。
事態が緊迫したのは、先月末のことだ。支援交渉がまとまりかけていたにもかかわらず、ギリシャが一方的に交渉を打ち切り、EUに事前の通告をせずに国民投票の実施を宣言したことから交渉が決裂してしまったのだ。チプラス首相が、「民意を問う」賭けに出たのである。
国民投票までの間も、事態は緊迫の度を増した。ギリシャ政府は6月29日、金融不安と資本流出懸念の高まりから、銀行の休業やATMを使った引き出し額の制限(1日当たり60ユーロ、約8000円)、海外への送金・現金持ち出しの制限などを柱とする資本規制に追い込まれた。
そして翌30日、ギリシャはIMFに約15億ユーロ(約2000億円)の債務を返済せず、事実上のデフォルト(債務不履行)に陥った。先進国として、またユーロ圏の国家として初という異例の事態だ。IMFは混乱を最小限に抑えるため、あえてデフォルトと見なさず「延滞(arrears)」に分類したものの、新規融資を含むすべての追加金融支援の停止措置を発動した。
最後に残ったギリシャ支援は、ECBからのELA(緊急流動性支援)だ。1日当たり60ユーロまでとはいえ同国内の銀行のATMで引き出しができるユーロ紙幣のほとんどは、このELAで供給されているものだ。今後の同国政府と債権国側との交渉次第では、いつELAが打ち切られ、銀行の休業に続いてATMが完全停止してもおかしくない状況となっていた。
こうした中でギリシャは今月5日、EUが求める財政緊縮策への賛否を問う国民投票を実施した。結果は予想を覆すもので、反対が61.31%と賛成の38.69%を大きく上回る結果になった。チプラス首相は賭けに勝ち、5日夜の記者会見で「有権者は勇気ある選択をした」と勝利宣言をした。一両日中にもEUなど債権国側に再協議を求めて、緊縮策反対の「民意」を盾に、大幅な債務減免などの要求を突きつける構えという。