高いROEの東電が見送られた理由
最も注目されていたのが東京電力だ。証券会社のアナリストの事前予想では、複数のアナリストが採用候補に東電の名前を挙げていた。
東電は福島第一原子力発電所の事故による巨額賠償負担や廃炉費用で赤字経営に転落した。政府(原子力損害賠償・廃炉等支援機構)が普通株式の49.8%を出資し、事実上、公的管理下に置かれたままだが、税金の投入で黒字に転換するなど財務内容は大幅に回復した。
ROEは14年3月期が28.3%、15年3月期が24.9%と高い。東電は巨額赤字で自己資本が激減した分、見せかけ上ROEが高くなったにすぎない。数字のマジックである。
定量的な数字だけを取れば、ROEの高い東電の採用は、確かにあり得るとみられていた。しかし、JPX日経400はガバナンスを重視するため、東電を入れていいかどうか議論は分かれたとみられる。東電について「母集団に入る銘柄でも、資料に記載のない事象が発生した場合や(採用の諾否の判断が)困難な場合には採用に至らない場合がある」という“例外規定”が適用され、見送りになったという見方がある。東電は“ネガティブ・サプライズ”で8月10日、株価は一時、前日比9%超(82円)下げ、803円となった。終値は55円安の830円。
原子力関連銘柄については「東電は新規採用、東芝は継続」といったブラックジョークまがいの噂まで飛び交っていた。「同じ原発関連なら東芝を除外して東電を入れたらいい」というアナリストが存在するのも事実だ。
日本取引所グループが出した結論は、「東電は見送り」。カバナンス重視の主旨に反すると判断したようだ。
原発再稼働が早まる期待から東電株が買われた
東京株式市場では東電株が買われている。8月3日には年初来高値の939円をつけた。東日本大震災直後の11年3月24日以来の高値だ。14年10月の安値318円を起点とすれば8月3日の高値939円までで株価は2.95倍になった。
東電株を買う材料はいくつもある。ひとつは、東電の4~6月期決算の経常利益が前年同期比4.1倍の2141億円になったこと。4~6月期としては過去最高だといわれている。原油安に伴い燃料費が減ったのが原因だ。支援機構からの交付金(4267億円)を計上した特別利益が、原子力損害賠償費(4056億円)の特別損失を上回ったことが寄与したもので、業績が完全に持ち直したわけではない。
2つ目は8月11日に九州電力の川内原発1号機が再稼働したことを受け、投資家は東電の原発再稼働を視野に入れている。今後の安全審査に「(優先的に)東電の柏崎刈羽原発6、7号機が選ばれる」との思惑が働いている。
3つ目は7月31日の検察審査会で東電の勝俣恒久・元会長ら旧経営陣3人の強制起訴が決まったことを「これは東電の禊につながる」と、株式市場が評価していることだ。悪材料は出尽くしたというドライな見方が台頭した。個人の投機家は原子力発電所の再稼働が早まることに賭けているのだ。
JPX日経400に新規採用されることで、東電は晴れて表舞台に登場するとの見方が強かったが、一転して見送りとなった。投機家の思惑が外れたことで、株価は急降下した。
賠償部門を切り離して、新生・東電として再スタートを切るというシナリオが政府内にある。しかし、既存の株主の責任をどう問うのかといった基本的な問題は何ひとつ議論されていない。そのため、「東電はまともな投資対象にはならず、あくまで投機対象」(市場関係者)と評する見方も強い。
(文=編集部)