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松江哲明の経済ドキュメンタリー・サブカル・ウォッチ!【第10夜】

「肉が来ない……」もつやき職人が言葉通じない中国で悪戦苦闘

post_975.jpg毎週日曜日 14:00から放送。
(「ザ・ノンフィクションHP」より)

ーー『カンブリア宮殿』『ガイアの夜明け』(共にテレビ東京)『情熱大陸』(TBS)などの経済ドキュメンタリー番組を日夜ウォッチし続けている映画監督・松江哲明氏が、ドキュメンタリー作家の視点で裏読みレビュー!

今回の番組:12月2日放送『ザ・ノンフィクション』(テーマ:もつ焼き一生懸命!)

『ザ・ノンフィクション』で放送された『もつ焼き一生懸命! ~麻布十番…そして上海~』は、いきなり断言してしまうのもアレだが、そんなに面白い回ではなかった。

 夕方のニュース番組の合間に流れる人気店紹介を思わせるのんびりとした演出に、二代目の店主が三代目に店をどのタイミングで譲るか、という大切な決断が70歳の誕生パーティというあまりに緊張感のない場面で描かれ、肝心の想いを語る場面も趣味の釣りの合間という間の抜けたもの。本仮屋ユイカさんの、のんびりとしたナレーションがぴったり過ぎて素直に「今夜はもつ焼きにしよっかなー」なんて気持ちになってしまう。麻布十番と上海の、それぞれは「もつ焼き」という共通点しかない二組をシンクロさせることなく番組は進む。

 もし『ホストの前に人間やろ!』だったら酔った勢いのパンチの一つや二つはあるはずだし、涙を流すのならホストグランプリの会場であるべきだ。劇映画以上の見せ場を用意してこその『ザ・ノンフィクション』でしょう! そして日曜の昼にダウナーな気分にさせて欲しいのだ。

しかし、今回の放送で描かれる「まっすぐな」人間模様を見、最近、僕が何気なく思っていることに納得がいったのだ。

 僕はTwitterを始めてそろそろ半年になる。ドキュメンタリーを制作していると私的なことから題材を得ることが多いため、また作品が現実を扱っているせいで、このメディアとはうまく距離感をとらないといけないな、と思っていた。ふとしたつぶやきが作品にとっての大きなテーマとなったり、ネタバレになりかねない。

 特に昨年の震災頃は「やってなくて本当によかった」とさえ思う。映画制作者は見えないもの、聞こえにくいものを表現してこそ、だと僕は考える。それでも始めたのは周囲の説得と、監督ではなくプロデューサーを始めたからだ。「観客の声を知らずして、プロデューサーが務まるか」と言われ、その場で始めた。

 結果は、非常に楽しい。猫の写メをアップし、一方的にファンだった方のつぶやきをチェックする。リアクションがあるのも嬉しい。ちょっと嫌らしいがリツイートされやすい話題というのも分かって来た。

 で、気づいたのだが最近の話題はもっぱら選挙だ。

 僕がフォローする人たちの政治観はだいたい似ている。そりゃそうだ、同じ趣味や志向の人たちが集まるのだから。僕は幼い頃から両親に「政治のことを家で語るのは良くない」と言われていたので、つぶやくこともないし、どこに票を入れたかなんて恋人にさえ話したことがない。だから人の意見も興味はないし、自分から話したことはない。でもTwitterを目にするだけで意見を問われているような気持ちになる。多分、ほとんどの人にとっては自然なことなんだろうけど、僕には新鮮だ。

 ネットの力、という言葉がある。つぶやきを見てると確かに熱い意見が多い。でも現実は「なんでそうなるの?」だ。世間って手強いな、と思う。Twitterがきっかけでデモにまで至るが(ほんの10年前までは考えも出来なかった)、それは同じ想いを共有する人たちの集まりにしかならないのだろうか。きっと世間ってやつからみたらネットのあれこれなんて、ほんの少数にすぎないのだろう。でもテレビも見ずに、新聞も読まずに、そこだけで情報を得る世代もいる。これからはそういう世代が増えるに違いない。

 番組で紹介されたもつ焼きの二代目はそろそろ引退することを考えながらも、三代目の息子とは店内で会話をすることもない。串を刺すのも全部自分。秘伝のタレも頭の中。以前入院した時は、外出許可を得て作ったそうだ。息子もそんな父に諦めているのか、呆れているのか、一切口を挟まない。自分が何かをしようものなら「クーデターでも考えているのか」と怒られるのが目に見えてるからだ。そんな頑固オヤジが店を息子に委ねることを決意した。

 黙々と仕事をする親子。あっけないくらいに三代目は仕事を終える。

 二代目がつぶやいた「はい、OK」。

 僕はこの映像を見て、もっと早く二人はこういう関係が持てなかったのかな、と思う。10年ぶりのタレ作りと紹介されていたが、過去にはどんなことがあって、今まで一緒に作ることがなかったのだろう。

 僕はもう、同じ想いを共有する人で集まるのは十分ではないか、と思う。それより身近な人と会話をし、意見を交換する方が大きな変化に繋がるのではないか。ネットで自分の意見をつぶやくひとは、それを誰かに直接話したことがあるのだろうか。千人にアジテートするよりも、もしかしたら家族と向き合う方が、自分にとって大きな出来事になるかもしれない。

 麻布十番のもつ焼きの親子を見て、そんなことを思った。

 それに対して上海のもつ焼きでは、何度言っても注文通りに届かない精肉、肉質の違い、言葉の通じない店員といったさまざまな問題にもめげずに、もつ焼き店を軌道に乗せていた。日本から来た店長はしぶとい。折れない。その秘訣はとにかく人と話し、共に動くことだった。それは人を信じる、ということにも繋がるようにも見えた。 いずれの関係性も未来に繋がることと、気づいた。
(文=松江哲明/映画監督)

松江哲明(まつえ・てつあき)
1977年、東京都生まれ。映画監督。99年に在日コリアンである自身の家族を撮った『あんにょんキムチ』でデビュー。ほかの作品に『童貞。 をプロデュース』(07年)、『あんにょん由美香』(09年)など。また『ライブテープ』(09)は、第22回東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門で作品賞。

BusinessJournal編集部

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