しかし、公共図書館と学校図書館は似て非なるものだ。根拠となる法律すら異なる。学校図書館を民間委託するのであれば、市民図書館とは別に、学校図書館の業務委託の是非を教育委員会や経済文教委員会に諮るのが行政上のルールだ。そのうえで議会で審議し、正式に予算もあげて議決されなければならないはずだが、いくら調べてもそのようなプロセスがあった痕跡は出てこない。
この図は、17年10月に和歌山市が市民図書館の指定管理者を募集したときに添付されていた「業務要求水準書」の一部である。この中に、手書きで線が引かれていて読みにくいが「学校等との連携」という一文がある。前出の市民図書館担当者に詳しく事情を聞いてみると、どうやらこの一文が「手続きなしで学校図書館をCCCに委託できる根拠」になっているらしい。
つまり、「市民図書館の指定管理者の業務範囲に“学校図書館の支援”も入っているため、あらためて別に手続きを踏む必要はない」、委託費に関しても、「指定管理料に含まれているため、別に予算を要求する必要はない」というのが、市側の言い分なのだ。
「学校図書館の民間委託について、これまで議会でまったく議論されていないではないか」と指摘すると、「今年3月の経済文教委員会で、議員さんからの質問に対する回答として、指定管理者が学校図書館の運営をサポートすることも了承いただいている」と、担当者は釈明した。
いずれも、もっともらしく聞こえるが、少し調べただけでも辻褄の合わないところがボロボロ出てきた。
「読み聞かせや、お話会、ブックトーク、学校行事に合わせた団体貸出などで、公共図書館は、地元の小中学校へ定期的に出張しています。しかし、それは公共図書館側の地域活動なので、学校図書館への司書派遣とは根本的に異なる業務だと思います」
ある現役の司書は、こう言って首をかしげる。確かに、地域活動の一環として、市立図書館が主体となって学校と連携するだけであれば、なんの手続きも必要ない。どこの地域でも行われていることだ。
ところが、和歌山市がCCCに委託しようとしているのは、市立図書館が「月1回、各学校を回ってブックトークを行う」といった“オマケ業務”ではなく、「生徒の読書支援のため、恒常的に司書を派遣して、図書館を整備する」という、学校図書館が主体になる別の事業だ。
長年、自治体直営の図書館館長を務めた後、戸板女子短期大学教授や日本図書館協会理事等を歴任した大澤正雄氏(現・東京の図書館をもっとよくする会代表)は、こう危惧する。
「和歌山市は『指定管理者業務要求水準書』に『学校等との連携』があります。連携というのは、図書館側が中心となって学校図書館運営をサポートするということで、主体的に公立図書館が学校図書館を運営するというのは問題があります。これは指定管理の会社が『学校教育』を行うことになり、公教育への介入になります。また、指定管理でなく当該会社に委託した場合、直接校長(担当教諭)から運営の在り方やノウハウを聞かないと運営ができません。それは偽装請負になる危険性があります」