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杉江弘「機長の目」

あおり運転を撲滅する“簡単な方法”…「後続車が見えたらレーンを譲る」は世界の常識

文=杉江弘/航空評論家、元日本航空機長
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大阪市内で連行される際、必死に抵抗する宮崎文夫容疑者(写真:日刊スポーツ/アフロ)

 2017年に東名高速で路上に停止したワゴン車にトラックが追突し、乗っていた夫婦が死亡した事件。あおり運転で事件の原因をつくった男性は、第一審で危険運転致死傷罪で懲役18年が言い渡された。

 あれから2年、常磐自動車道で車を降りてきた宮崎文夫容疑者(43)が、ほかの乗用車を運転する男性に窓の外から暴力を振るうシーンがマスコミで大きく取り上げられた。警察庁は「厳正な捜査を徹底するとともにあおり運転等を行った者に対しては危険性帯有(東名事故後に成立)による運転免許の停止等の行政処分を行っている」としているが、あおり運転はこの1年でも2倍近くに増加したと公表した。

 これだけテレビなどで大きく報道され、罰則も強化されて裁判で長期刑が言い渡されているにもかかわらず、事件が減らないのは一体なぜか。結論を言えば、警察やマスコミの対応の仕方が的外れであるからだ。一度世界に目を向けてみたらどうか。解決策はごく簡単に手に入れることができるはずだ。その一端を、実際に海外の多くの国で運転してきた自身の経験も踏まえて紹介してみたい。

欧米の高速道路での走り方

 原則として速度制限のないドイツのアウトバーンや、最高速度が時速130キロなどと一応の制限があるフランスの高速道路では、どのようなマナーで運転されているのか。一度走ってみると実によくわかる。

 ドライバーは追い越し車線をどれだけ高速で走っていても、バックミラーに後続車が見えると瞬時に走行車線へ車線変更する。これを守らないで「時速200キロ以上で走っているのだから追い越し車線をキープしていても良い」と思うドライバーは皆無である。ヨーロッパでは高速道路が早くから整備され、航空機や鉄道を利用しない人でも、それらに匹敵するほどの速さで移動できるように高速道路の利用が生活の基盤となっている。したがって時速200キロを超えるような車が走っていても、それは「なんらかの理由があって急いでいるのだろう」と思い、追い越し車線をブロックすることはない。

 後ろに車が見えたら、すぐにレーンを空けるのはそのためである。このような状況ではあおり運転など発生するはずもなく、実際私の知る限りあおり運転によるトラブルを世界で耳にすることがない。日本でもっとも多い原因は、「追い越し車線を制限速度の100キロで走っているのだから、後続車が接近してきても、そのまま走り続けても問題ない」と思い込んでいることにある。そして後続車からクラクションを鳴らされても、パッシングライトを点灯されても、堂々と何が悪いのかと車線を空けない。ここからトラブルが発生するのである。

杉江弘/航空評論家、元日本航空機長

杉江弘/航空評論家、元日本航空機長

1946年、愛知県生まれ。1969年、慶應義塾大学法学部卒業。同年、日本航空に入社。DC-8、B747、エンブラエルE170などに乗務する。首相フライトなど政府要請による特別便の経験も多い。B747の飛行時間では世界一の1万4051(機長として1万2007)時間を記録し、2011年10月の退役までの総飛行時間(全ての機種)は2万1000時間を超える。安全推進部調査役時代には同社の重要な安全運航のポリシーの立案、推進に従事した。現在は航空問題(最近ではLCCの安全性)について解説、啓発活動を行っている。また海外での生活体験を基に日本と外国の文化の違いを解説し、日本と日本人の将来のあるべき姿などにも一石を投じている。日本エッセイスト・クラブ会員。著書多数。近著に『航空運賃の歴史と現況』(戎光祥出版)がある。
Hiroshi Sugie Official Site

Twitter:@CaptainSugie

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