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杉江弘「機長の目」

あおり運転を撲滅する“簡単な方法”…「後続車が見えたらレーンを譲る」は世界の常識

文=杉江弘/航空評論家、元日本航空機長

 ヨーロッパのようにミラーに後続車が映ればすぐに車線変更をするのがベストであるが、後続車から「車線を空けてほしい」という合図があった段階で、速やかにレーンを空ければ、まず事件にまで至ることはないだろう。そもそも追い越し車線を2キロほど続けて走れば「通行帯違反」で違反点数1、反則金6000円(普通車)を科せられることを知らないドライバーも多く、それがレーンをなかなか空けない理由にもなっている。その結果、急いでいる車はあおり行為はしなくても、左車線から先行車を追い抜く行為もよく目にする。

 しかしこれは極めて危険な行為である。その右側のレーンを走っている車は、まさか左の車線から追い抜きをかける車などいないと思っているので、たまたま車線変更しようと思っているときに接触事故にもなりかねないからだ。それを発生させないためにもヨーロッパのような運転マナーを身につけるべきであろう。

 ちなみにドイツでは右側からの追い抜きは罰則が重く、ドライバーはみんなそのことをよく知っているので、私も一度も見たことがない。

警察とメディアがやるべきこと

 8月中旬にある民放番組であおり運転について寄せられた意見3つを紹介していたが、そのひとつに「警察はあおり運転をなくすために何をやっているのかを知らせてほしい」というものがあった。この素朴な疑問の通り、警察は事件を起こす者の検挙と罰を与えることに力を入れているが、本当のところ、どうやってあおり運転そのものをなくせるのかわからないのではないか。

 しかし、やれることはいっぱいあるはずだ。たとえば免許更新時の講習で、高速道路の走り方や追い越し車線を2キロ程度走行すると道交法違反になることなどを、しっかり教育することである。一方、メディアのほうでは、スポンサーのいらない公共放送のNHKが夜のニュースの前にでも、ヨーロッパの高速道路の走行実態を映像で紹介して啓蒙活動を行う、あるいは有名なF1などのレーサーに高速道路での模範運転をしてもらい、それを見てもらうなど、海外での運転経験のない日本のドライバーの教育に一役買ってもらうことだ。

 ちなみに昨年から民放のいくつかの番組で、夜間の住宅地では車のライトをハイビームにするといかに光が遠くまで届き、人身事故をなくすことができるかという良い放送が行われた。本来車のライトはハイビームが基本であるとまでは言及していないものの、最近徐々にハイビームを使う車が増えてきた感じがしている。加えて、これまで夕方になるとチマチマとスモールライトを点ける車が多かったが、ヘッドライトを点灯する車が増えてきたのは事実である。

杉江弘/航空評論家、元日本航空機長

杉江弘/航空評論家、元日本航空機長

1946年、愛知県生まれ。1969年、慶應義塾大学法学部卒業。同年、日本航空に入社。DC-8、B747、エンブラエルE170などに乗務する。首相フライトなど政府要請による特別便の経験も多い。B747の飛行時間では世界一の1万4051(機長として1万2007)時間を記録し、2011年10月の退役までの総飛行時間(全ての機種)は2万1000時間を超える。安全推進部調査役時代には同社の重要な安全運航のポリシーの立案、推進に従事した。現在は航空問題(最近ではLCCの安全性)について解説、啓発活動を行っている。また海外での生活体験を基に日本と外国の文化の違いを解説し、日本と日本人の将来のあるべき姿などにも一石を投じている。日本エッセイスト・クラブ会員。著書多数。近著に『航空運賃の歴史と現況』(戎光祥出版)がある。
Hiroshi Sugie Official Site

Twitter:@CaptainSugie

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