非常用電源
病院に必要な災害時対策は耐震化に限ったものではない。2018年6月18日に発生した大阪府北部地震では、停電の発生に加え、病院の非常用電源が停止するという事態が発生したことから、厚労省は初めて病院の非常用電源の調査を実施した。非常用電源には、電気事業法、消防法、建築基準法による規定があり、それぞれが非常用電源の点検を義務付けており、厚労省ではそれぞれの法律に照らして、点検状況を調査している。
まず、非常用電源の保有と点検の有無については、以下の通りとなっている。
建築基準法による非常用電源は、その建物の大きさによって義務付けられているため、小規模の病院には該当しない。また、電気事業法は非常用電源の扱いを定めているため、病院の非常用電源を見る場合には、消防法を基準とした保有がもっとも適しているだろう。また、点検義務も消防法が一番厳しいものとなっている。
消防法で病院の非常用電源を見ると、90%以上の病院が非常用電源を保有していることがわかる。大半の病院は定期点検を実施しているが、それでも一部の病院では定期点検を行っていない。なお、実施済と未実施を合わせても100%にならないのは、消防法で定められている「点検結果を消防署に報告する義務」を怠っている病院があるためだ。消防法では、定期点検の実施と結果の報告を義務付けており、点検を行わなかった場合には罰則規定が設けられている。
多くの医療機器は電気により動いていることを考えた場合、病院にとって非常用電源が確実に稼働するのかを点検しておくことは、最重要だろう。
BCP
病院の耐震化が済んでいて、非常用電源を保有し、きちんと点検をしていても、いざ災害が発生したときに、病院がうまく機能するとは限らない。東日本大震災を経験した医師はいう。
「何しろインフラがすべて駄目になっていた。非常用電源で電気はあったが、水はなく、医薬品も不足している状態だった。電話も不通となり、通信手段がなくなった。そして、何よりも道路の損傷により、医師や看護師の出勤が難しい上に、患者の搬送も困難となった。こうした事態が発生することを予測して、事前に準備をしておくことが重要だと、つくづく実感した」
つまり、BCP(業務継続計画)が非常に重要な意味を持つということだ。厚労省は今回初めて、病院がBCPを策定しているかを調査した。回答を得られた7294の病院のうち、BCPを策定している病院は1826で、その割合はわずかに25%にとどまっている。75%にあたる5468の病院はBCPを策定していない。これは非常に重要な問題だろう。幸いなことは、災害拠点病院、救命救急センター 、周産期母子医療センターといった重要な医療機関では、ほぼ100%がBCPを策定していたことだ。
病院が重要な機能を求められる局面は、何も震災だけではない。さまざまな自然災害もあれば、事故や場合によってはテロという事態も考えられる。こうした不測の事態のなかで、病院が人命を救うためには、“準備”が何よりも肝心なのはいうまでもない。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)