事件は一切報道されず
都教委としては、「違法行為はあったものの、当局の指導に従って改善したので特に問題はない」というスタンスなのだが、図書館関係者は「この一連のプロセスは茶番でしかない」と、厳しく糾弾する。
「告発した人は、労働局が動かざるを得ないくらい、決定的な違法行為の証拠をそろえて申告したと思われます。そのため、労働局は一応動いて、おざなりにでも是正指導しました。都教委も、それに合わせて是正をして、違法行為にならないよう規則を設けたり、厳しい通達を出しましたが、それによって現場は余計にやりづらくなっただけで、本質的なところは何も変わっていません」
実に不可解な経緯といえるわけだが、調べていくうちに、この事件には表に出ていない側面が、さらに2つ隠されていたことがわかった。
下の書類は、都教委の都立高校を管轄する部署が民間委託した学校図書館の運営状況の報告書である。その中に、こんな記述がある。
「5月13日 高校経理係・中部センターが農芸高校を訪問(労働局訪問前の事前打合せ)」
東京労働局が偽装請負の疑いで都立農芸高校に調査に入ったのは、5月21日だった。このときの労働局の調査は、午前中に訪問予告のファックスがあり、その数時間後に訪問していることから、筆者は“抜き打ち”の調査だと理解していた。
ところが、この報告書を見ると、労働局が調査に入る8日前に、都教委の担当部署が調査対象となった高校と打ち合わせしていたのだ。つまり、労働局から都教委に対しては事前に調査予告があり、それに合わせて周到な準備がなされていたと考えられる。
調査後、翌々月の7月末に労働局は都に是正指導を行った。それを受けて都は8月末、「是正完了」と労働局に報告してスピード解決。都教委が発表しなかったためか、この事件についての新聞報道は、筆者が調べた限り1件も出てこない。
都立高校関係者によれば、この事件に関与した会社や担当者は「誰も処分されていない」。つまり、事件は表面上は「なかったこと」として処理されているのである。
いったい、どうしてこれほどの重大事件が表に出なかったのだろうか。東京都教育委員会に問い合わせたところ、以下のような回答がきた。
「労働局の指導をもとに是正を行っており、今回の件により、特に外部に迷惑をかけたような事態ではなかったので、内部で適正に対処した」
関与した担当者や事業者に対する処分も一切行っていないという。これでは「意図的に不祥事をもみ消ししたのではないか」と言われても仕方ないだろう。