また、是正措置の内容も、偽装請負にならないよう受託会社とのやりとりの手続きを厳格にしたというだけで、現場の労働者に対する不利益な扱いについては、改善措置は何もとられていない。
偽装請負が発覚した現場では、告発した労働者が不利益を被らないよう、一時的にしろ使用者が直接雇用したり、違法状態を早急に解消するために派遣契約に転換するなどの救済措置が行われることも珍しくないが、このとき都教委では、委託会社のスタッフに対する処遇を再検討した形跡すらみられなかった。
都教委によれば「契約上、そういうことはできない」というのがその理由だが、労働者サイドからみた、労働者派遣に該当する業務を請負契約で行っていることの不適切さは、今をもってしても、なんら改善されていないといえるだろう。
ちなみに、是正指導を行った東京労働局にも聞いてみたところ、「個別の案件については一切答えられないが、一般的には、是正措置がなされたことが確認できれば公表はしないのが基本スタンスだ」と回答した。
契約不履行が常態化
もうひとつの側面は、前記の報告書の主な議題は、偽装請負ではなく学校図書館の受託企業が犯している重大な契約違反についてであったこと。
具体的にいえば、仕様書に定められた通りに司書の人員配置ができていないこと(以下、「不履行」と呼ぶ)に対して、担当部署がいかに度重なる指導を厳しくしてきたかを記録しているのが、この文書だったのだ。
労働局調査後の日付で提出されているにもかかわらず、違法認定された偽装請負については、ほんの一部分触れられているだけで、ほとんどが特定の委託会社が犯した不履行について逐一報告された内容だった。
下の書類は、前出の都教委の担当部署が受託企業への指導の経緯を報告した文書の冒頭部分だ。
ここには、15年4月から「サービスエース」という会社が受託している、3つの都立高校で起きた不履行について、担当部署の対応が詳しく書かれている。
農芸高校については4月に2日、中野工業高校は4月に3日、荻窪高校にいたっては、4月~6月20日頃にかけて休日を除いたほとんどすべての授業日において、不履行が起きている。
都立高校に設置された学校図書館の業務委託は、午前と夜間(定時制)は司書ひとりの単数配置、午後だけは複数配置が基本だが、朝・昼・夜の三部制を敷いている荻窪高校については、午前・午後ともに複数配置が義務づけられていた。それにもかかわらず、当初、単数配置しかできていない日がほぼ毎日のように続いていた。
定時制課程があり、中学時代に不登校だった生徒への配慮のため、「月~金まで同じ司書を配置してほしい」との高校側から強い要望があったという特別な事情を差し引いても、これだけ長期間、不履行が続いているのは異様である。