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実は30万円!? 下げたら何ができる?

就職氷河期、本当の理由は高すぎる大卒初任給?

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初任給を5万円下げれば、就職氷河期は終わる?

 もし仮に、初任給の25%の5万円がカットされて15万円になったら、どうなるだろうか。前出の厚労省の調査によると、大卒男子の初任給が15万円を超えたのは1988年で、バブル絶頂の少し手前だった。当時とは物価も社会保険料も違うので単純比較はできないが、今でも1人なら月15万円の給料で生活できないことはない。

 初任給が15万円になり、会社が新入社員1人に25万円かけたのが20万円にダウンしたら、同額の予算で採用できる人数を25%増やせる。月1000万円の予算なら、採用できる人数が40人から50人に増える。

「採用の25%増」がどれぐらい大きなインパクトかというと、みんな入りたがる1000人以上の大企業の求人総数15万2400人が19万500人に増え、民間企業就職希望者数に対する求人倍率0.65は0.81に改善し、前回のピーク0.77(08年、09年3月卒)を超える。(リクルートの「ワークス大卒求人倍率調査/2012年3月卒」より)。

 初任給を下げれば、多くの学生を苦しめる「就職氷河期」は一気に雪解けを迎える。学生にとっては、同期の仲間につらい思いをさせても自分は20万円ほしいか、15万円で我慢して仲間を助けるか、という選択になる。

韓国の「初任給ワークシェアリング」の失敗

 初任給を下げて採用を増やすという「初任給ワークシェアリング」を、実際に実践してみせた国がある。韓国である。

 国民ひとり当たりの所得(GNI)と比較した大卒初任給(08年)は、日本の0.6倍、アメリカの1.2倍に対し韓国は1.3倍もあり、「大卒の初任給は高すぎる」という批判が韓国政府に寄せられていた。日本の経団連にあたる韓国の全国経済人連合会(全経連)は09年2月、政府の意向を受けて「雇用安定に向けた経済界発表文」を発表し、大卒初任給を削減する代わりに、新規採用・インターン採用を増やすワークシェアリングに乗り出す。全経連所属の民間企業30大グループに最大28%の初任給削減を要請し、サムスン、LG、現代、SKなど8グループがこれに応じ、採用数を当初予定よりも増やした。

 だが、この3年前の韓国の試みは「不徹底で効果が薄かった」という声がもっぱら。全経連の要請を受けてもロッテ、現代自動車、韓進など13グループが削減を拒否し、様子を見ていた他社もそれにならった。削減した企業も、ほとんどは短期間で元に戻している。要請を拒否した企業は「社会的弱者の大卒新入社員に犠牲を強要するな、という非難の声を無視できなかった」「政策と歩調を合わせた全経連のやり方には最初から無理があった」と、当時を振り返る。

 初任給を20万円もらう新入社員が社会的弱者なのかという議論はともかく、やるならやるで産業界が完全に足並みを揃えるか、政府が最低賃金法ならぬ「最高初任給法」を制定して、税務署がチェックし、違反企業に罰則を科すぐらいのことをやらなければ「初任給ワークシェアリング」はうまくいかないことを、韓国の失敗は教えてくれる。
(文=寺尾 淳 フリーライター/ファイナンシャルプランナー)

BusinessJournal編集部

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