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片田珠美「精神科女医のたわごと」
【貴ノ富士暴行】大相撲界、暴力の連鎖が続く背景に「攻撃者との同一視」というメカニズム
むしろ、「自分は理不尽な目に遭い、つらい思いをした」という被害者意識が強いほど、自分と同じような体験を他の誰かに味わわせようとする。いや、より正確には、自分がつらい思いをした体験を他の誰かに味わわせることによってしか、その体験を乗り越えられないというべきだろう。
同様のことが相撲界でも起こっているのではないか。親方や兄弟子の言う通りにしなければ、暴力を振るわれることもあったので、自分が上の立場になると、今度は若い衆に同じことを繰り返す。
このような場合、「自分が暴力を振るわれて嫌な思いをしたのなら、同じことをしなければいいのに」という理屈は通用しない。むしろ、「自分はずっと我慢してきたのだから、今度は若い衆に少々暴力を振るっても許されるはず」と考える。
つまり、自分自身が辛抱した経験によって、若い衆への暴力を正当化するわけで、こうした正当化がある限り、自分が暴力を振るったことを心から反省する可能性は低い。だからこそ、相撲界では暴行問題が後を絶たないのである。
(文=片田珠美/精神科医)
【参考文献】
アンナ・フロイト『自我と防衛』外林大作訳 誠信書房、1958年
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