一方、香港を中心とした中国本土外での人民元の取引は、中国政府の厳しい規制が及ばない。そのため、国境を跨いだクロスボーダーの決済や、為替レートの変動の制限などはなく比較的自由に取引が可能だ。
人民元の扱いをめぐる国際情勢
中国人民銀行が取引レートを一方的に決め、しかも中国本土では取引に大きな制限がある人民元について、わが国や米国は人民元のバスケット入りに慎重なスタンスを取ってきた。それに対して中国政府は、今後一段と人民元の国際化を促進すると表明しており、今年8月11日に、事実上の人民元切り下げを行ったときにも、当該措置は人民元の国際化への一環と説明していた。
また、「今後も人民元取引の自由化を積極的に推進する」と明言してきた。それと同時に、中国政府は人民元をSDRのバスケットに組み入れて、人民元が主要国際通貨のひとつと認識されることをIMFに積極的に働きかけてきた。
近年、そうした中国政府の要請に対する強力な援軍が現れた。英国やドイツなどを中心とする欧州諸国が、中国政府の要請を明確に支持するスタンスを取り始めたのである。そうした情勢の変化によって、中国をめぐっては、IMF内部で「中国に接近する欧州諸国vs.中国と距離を置く日米」という構図が鮮明化しつつある。
一部の欧州諸国が親中国のスタンスを明確にし始めた背景には、人口減少などの問題を抱えて安定成長期にある欧州経済にとって、13億人の人口を抱える中国=巨大消費地としての重要性を増していることがある。特に、強力な輸出産業を持つドイツは、中国市場への積極的な進出によって世界市場でのマーケットシェアを拡大しており、今後もそうした展開を進めることが最大課題のひとつになっている。
親中国の欧州諸国と日本の対応
スコットランドの独立やEUからの脱退などの問題を抱える英国にとっても、中国の存在は大きい。10月の習近平主席の訪英時には最大限の歓待の意図を示し、原子力発電所建設に関するプロジェクトにも中国からの支援を受ける意向を示した。また、世界有数の金融都市ロンドンを抱える英国にとって、人民元の決済口座をロンドンに確保し、今後拡大が見込まれる人民元取引を集中させたいとの意図は明確だ。そうした英国政府の姿勢について国内から「やりすぎ」との批判が出ているものの、当面英国政府の親中国のスタンスは変わらないだろう。