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木村貴「陰謀論のリアル」

米国中央銀行=FRBという陰謀…大銀行と政府の既得権益を守る組織の正体

文=木村貴/経済ジャーナリスト

 ヴァンダーリップはのちに会合のことをこう回顧している。

「全員の名が一度に記されたりすれば、われわれの秘密旅行はワシントンやウォール街、さらにはロンドンを震撼させたことだろう。そんなことになってはならなかった。そうなったらわれわれの時間と努力が水泡に帰する」(G・エドワード・グリフィン『マネーを生みだす怪物』)

 会合の目的とは、米国に中央銀行、すなわち後のFRBをつくるための法案を作成することだった。それをなぜこれほどひた隠しにしたのだろう。しかも、中央銀行の役割の一つは民間銀行の営業活動を監督し、規制することとされている。なぜ米国の銀行家たちは、自分の自由を縛る中央銀行制度をわざわざつくろうとしたのだろう。

銀行を取り巻いていた厳しい経営環境

 その背景には、当時の銀行業界の置かれた経営状況がある。米企業は事業資金を銀行から借り入れるより、利益でまかなう姿勢を強め、急速に銀行離れが進んでいた。しかもビジネスのパイ全体が縮小するなかで、それを奪いあう競争は熾烈になっていた。

 米国の民間銀行には大きく2つの種類がある。ひとつは各州が認可する州法銀行で、建国以来の古い伝統をもつ。もうひとつは連邦政府が認可する国法銀行で、南北戦争中の1863年に新設が認められた。連邦政府が国法銀行の普及を後押ししたことで、州法銀行は一時衰退するが、南北戦争終結後の経済成長に伴い、発展のフロンティアとなった南部・西部で創業が相次ぎ、勢いを盛り返していた。

 ジキル島の会合に経営トップが参加したモルガン系のファースト・ナショナル・バンク・オブ・ニューヨーク、ロックフェラー系のナショナル・シティ・バンク・オブ・ニューヨークは、どちらも行名に「ナショナル」という形容詞がつくが、これは国法銀行を意味する。ジキル島に集まった当時、これら国法銀行は州法銀行の攻勢を受け、苦しい立場に置かれていた。

 とくにモルガン、ロックフェラー系をはじめとするニューヨーク勢は、国法銀行同士の競争でも厳しい状況にあった。新興勢力であるセントルイス、シカゴの両都市に追い上げられていたからである。

 さらに銀行にとって、もっと恐ろしいことがあった。預金者による取り付け騒ぎである。銀行は一般に、預金の一部だけを支払準備として手元に残し、残りは貸し出しに回してしまうから、何かのきっかけで預金者が一斉に払い戻しを求めると、それに対応しきれず破綻してしまう。貸し出しを増やし、手元に残す預金の割合が小さくなればなるほど、そのリスクは高まる。実際、1907年には多数の取り付けをともなう金融恐慌が発生し、JPモルガン商会が救済に乗り出して事態を何とか収拾している。

木村 貴/経済ジャーナリスト

木村 貴/経済ジャーナリスト

経済ジャーナリスト。1964年熊本生まれ、一橋大学法学部卒業。大手新聞社で証券・金融・国際経済の記者として活躍。欧州で支局長を経験。勤務のかたわら、欧米の自由主義的な経済学を学ぶ。現在は記者職を離れ、経済を中心テーマに個人で著作活動を行う。

Twitter:@libertypressjp

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