12月18日の12時30分過ぎ、日経平均株価は一時、前日比で500円以上も上昇した。日本銀行が金融緩和策のひとつとして実施しているETF(上場投資信託の買い入れ枠)を、2016年4月に現在の年間3兆円から3兆3000億円に拡大すると発表したからだ。
だが、すぐに発表前の水準より値下がりした。「『拡大』の文字にアルゴリズム取引が反応しただけ」(市場関係者)であって、むしろ小手先の急場しのぎの緩和として受け止められてしまった。異次元緩和策の手詰まり感を露呈したとして、結果的には市場の失望を買ったともいえよう。そうしたなか、「これで追加緩和のカードをいつでも切れる体制は整った」との声が、マーケット関係者の一部から聞こえ始めた。
今回のETFの買い入れは、銀行等から買い入れた株式の売却を再開する目的があり、市場への影響を相殺するための措置である。黒田東彦総裁は18日の会見で、肩すかしを食らった報道陣を前に「ETF拡大は追加緩和でない」と強調した。
もちろん、淡い下心はあっただろう。メガバンク関係者は「今回の市場の一連のドタバタの謎を解く鍵は、実は金融機関から買い入れた株式の売却再開と完了期限の延長の決定にあるだろう」と語る。これは金融政策とは無関係の措置で、決定会合前日の17日に通常会合で決められた。通常、これらの発表は決定次第即時に公表されるが、今回は金融政策と一緒に発表された。
「前日に発表すれば、ETF買い入れの拡大は見透かされる可能性がある。米FRB(連邦準備制度)が利上げした直後で市場を期待させようとした下心を出して、小手先の一手に走ってしまった感は否めない。だが、本質は黒田総裁が語るように、株式売却に伴う金融政策の技術的な整備」(投資ファンド幹部)
米国の利上げ直後という点を除いても、16年4月に再開する事項をなぜ今発表したのかという疑問が残るが、今回の会合で公表しておきたかった理由も見え隠れする。
市場の地ならし
次回の決定会合は1月末。米利上げの影響や中国経済の動向がこの先1カ月でどう転ぶかわからない。日銀が株式を売却すれば多少は株式市場に混乱が出かねない。「そうした要因を排除するために、市場の地ならしに早めに動いたとの観測がすでにマーケット関係者には広まっている」(同)
ETFの買い入れ枠の拡大と同時に決めた長期国債の買い入れの残存期間長期化も、現行の縛りでは買い入れ余地が少ないためより長い期間の国債を買うようにした一手。これにより、13年4月、14年10月に続く「バズーカ3」の足場を着実に固める。
円安進行をもたらす追加緩和に官邸周辺は消極的だ。ただ、参院選を前に景況感が悪化すれば緩和待望論も浮上するだろう。いずれにせよ、黒田日銀がバズーカをいつでも撃てる体制整備はされた。
(文=編集部)