高校からも大学からも批判が噴出し、まだまだ混迷を極めそうな大学入学者選抜改革。2021年1月から新たに始まる大学入学共通テストでは、英語の4技能を総合的に評価するための民間試験の導入、さらには国語や数学での記述式問題の導入までも延期が確定し、混とんとした情勢が続いている。
今回の改革で廃止されることになる大学入試センター試験は、共通第一次学力試験を前身に持つ。マークシート方式が導入された共通一次が始まったのは、1979年のこと。のちにベストセラー『受験は要領』で名を轟かせることになる精神科医の和田秀樹氏は、その第1期生にあたる。
当時灘高校の3年生だった彼の、新しい試験に対する戸惑いや憤りは、自伝的小説『灘校物語』でも描かれている。受験のエキスパートとして、かつての当事者として、和田氏はどう考えるのか。入試改革への率直な意見を語ってもらった。
共通一次がスタートする以前、各国公立大は独自に試験を行っていた。その中身はというと、高校教育の範囲を逸脱したような奇問・難問が出題されることが珍しくなく、一部の進学校がその対策に時間を割くことも問題視されていた。そこで、普通の学校で学べるような学力の到達度を計ることが可能な試験として、共通一次が導入されることになる。
共通一次は易しい問題が大半を占めたことで、難問対策に長けた中高一貫の進学校にとっては不利になるという声もあった。ただ、和田氏はその予想通りにはいかなかったと指摘する。
「いわゆる普通の勉強をしている子を救うための共通一次ともいわれ、受験生のひとりとして、この試験を押しつけられたときはすごく不快でした。でも、結果的には中高一貫の進学校とそうでない学校の差がさらについてしまったんです。なぜなら、共通一次だって対策をしないと高い点は取れないわけですから。いわゆる役人や学者が頭で考えたことって予想通りにはならないわけですよ」
名門中高一貫校では、カリキュラムを高2で終えて1年間を受験対策につぎ込める。一方で、ふつうの学校は受験シーズンに突入してもカリキュラムを終えていないことすらある。導入当初こそ戸惑いがあったとはいえ、広範囲を覚えることが要求される共通一次でも、奇問・難問と同様に準備期間が長い中高一貫校が有利になるのは明白だった。
それから40年。共通一次のあとを引き継いだセンター試験は、大学入学共通テストに取って代わられることとなった。数学や国語は一部の問題で記述式も採用される予定だったが、和田氏は今回の改革にも否定的だ。
「たとえば記述式の問題を出したら思考力が豊かになるといわれていますが、大規模試験での記述式は、ものすごく模範解答型の答えを求められます。それでは思考が縛られて、思考力がなくなっちゃうんですよ。たとえばある答えがあったときに、それを出すためのやり方がいろいろあったほうが、思考力のためになります。人生でも、いろんな方法で答えを出せる人のほうが挫折に強いんです」
何かにつまづいたときに、ひとつの道しか知らない人と他の道を知っている人とでは、対応力に違いが出る。これは精神科医としてカウンセリングでも用いる考え方だという。ただ、採点のしやすさが重視される大規模試験での記述式問題では、こうした考え方を育むのは難しいだろう。
和田氏の批判の矛先は英語民間試験にも向けられる。4技能(読む・書く・聞く・話す)を問うこと自体に問題があるというのだ。
「英語だって4技能とかいうけど、英語の授業時間を変えずに聞く・話すに割く時間を増やすだけでは、読み書きがよけいできなくなります。みんな英語がしゃべれないことを問題にするけど、じゃあ筆談ならできますか? 書けない人のほうがはるかに多いんですよ」
新たなテストはなぜこうも欠陥を抱えてしまっているのか。その理由として和田氏は、制度を作る側に現場経験や現場感覚が足りないことを挙げる。
「僕らもインチキかもしれないけど、長年受験指導もしているし、生徒の声だって聞いています。この国の一番悪いところは、現場でがんばっている人の声を大事にしないことでしょう。ゆとり教育もそうでしたが、教師経験もないような人がわけのわからない教育改革をやって、かえって教育を悪くしているんです」
(文=編集部)
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