ここ数年、インバウンド(訪日外国人客)が急増し日本国内の消費を刺激している。
特に中国の旧正月に当たり長期休暇時期となる春節(2月7~13日)には訪日中国人客の「爆買い」が期待され、百貨店をはじめとする小売業、観光業関係者たちはあの手この手で彼らを呼び込もうとしている。
一方、爆買いへの期待が徐々に薄れ始めている。先日発表された中国のGDPが25年ぶりの低成長となり、経済失速が鮮明になりつつあるからだ。一部の観光関係者や地方自治体の観光担当者たちからは「今年の春節が過ぎたら、中国から他の国にターゲットを切り替える動きが出てくるだろう」との観測も聞かれる。その「他の国」に当たるのが、インドネシアとマレーシアだ。
両国の経済力は決して高いわけではないが、都市部は経済発展が目覚ましく、富裕層は確実に増加している。その富裕層が観光目的で訪日する数が増えているのだ。地方自治体の観光担当者はこう話す。
「中国人観光客は確かに魅力的ですが、マスコミで喧伝される“マナーが悪い”というイメージが定着してしまい、街の小さな商店ではとにかく中国人客を嫌悪する向きが強い。ところが、イスラム教は戒律で酒を飲むことが禁じられているので、酔っぱらって店内で暴れるといったトラブルは起きません。街の小売店や飲食店では、外国語を話せるスタッフを雇える余裕はありませんから、いくら外国人観光客がたくさんお金を落としてくれたとしても、トラブルを起こされるのだったら敬遠したいという気持ちも強い。その点、インドネシアやマレーシアの言語が理解できずコミュニケーションをとるのが難しくても、トラブルのリスクが低いので歓迎されているのです」
通常、飲食店ではアルコールを飲まない客は単価が低くなるので敬遠されがちだが、ムスリムの観光客はたくさんの料理を注文してくれるので、ありがたい存在だという。
しかし、昨今は中東情勢からイスラム教に不安を示す商店主も少なくないが、インドネシアやマレーシアは東南アジアのため、テロのイメージが結びつきにくいようだ。そうした事情もあって、昨今は中国人観光客を相手にするよりも、インドネシアやマレーシアからの観光客をターゲットにする店が増えているのだ。
課題はハラール認証
それでも、「日本においてイスラム文化や風習、イスラム教の戒律に対する理解は低く、まだ不慣れな部分が多い」(前出・観光担当者)という。特に、イスラム教の戒律に沿って生産・製造された商品であることを証明する「ハラール認証」は、日本ではまだ浸透していない。