人工知能、ホワイトカラーの仕事の大部分を代替可能に…人間でいえば上位16%のレベル
雇用状況の見方
論考を進めるにあたり、いくつかの前提条件を確認しておく。
ひとつ目は、現在の日本の雇用状況である。有効求人倍率(職を探している人1人に対して、いくつの求人があるかを示す指数)は、正規社員が増加していないという指摘(15年は8年ぶりに増加したようだが、26万人と1%に満たない増加である)はあるが、数値的には昨年12月に1.27となり1991年12月以来24年ぶりの高水準であり、厚生労働省と総務省は「雇用は好調である」と胸を張っている。
しかし、生産年齢人口(15歳から64歳)は、10年が前年から24.2万人増加、11年から減少に転じ39.3万人の減少となって以降、減少数は急激に増加し一気に100万人を超え、12年は116.7万人、13年が116.5万人、14年が116.0万人と3年連続で100万人を超えている。毎年100万人ずつ生産年齢人口が減少することの有効求人倍率へのインパクトは、かなり大きいといえる。
加えて、1940年代後半生まれの団塊世代が、政府の指示による雇用延長があり、60~65歳の間で定年を迎えるのが07年から14年であり、08年のリーマンショックの影響による09年の有効求人倍率の底値からの自然回復も勘案すると、ここ数年の有効求人倍率の上向きの傾向は、政府と役所が自画自賛するアベノミクスの恩恵(景気が良い)というよりも、労働人口の需要と供給の要因によるといえよう。日本経済は好調なので雇用は大丈夫、という判断は、リスクが高い。
今後の生産年齢人口の減少を見てみると、国立社会保障・人口問題研究所発表の「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)によれば、生産年齢人口の減少は15年の約100万人から減少に転じ、22年の45.8万人まで減少するが、その後再び増加に転じ、35年には再び100万人の大台に戻ると予想されている。
ここまで見てくると、日本においては労働供給力が継続的にマイナスなので、たとえ現状の仕事の一部がコンピューター技術によって代替されるとしても、多くの人間が仕事を奪われるという可能性は低いように思われるかもしれない。しかし、労働供給量が継続的にマイナスで雇用のコストが上昇すれば、経営者サイドにコンピューター技術により人間の仕事の代替をしようとするインセンティブが強く働くことになる。
加えて、昨今のような政府による企業に対する越権的な賃金引上げや雇用保護の要求が強くなれば、そのインセンティブはよりいっそう強くなる。つまり、「労働者にとってのメリット」が増えるほど代替のリスクが高まるという「トレードオフの事態」を想定しておく必要がある。