人工知能、ホワイトカラーの仕事の大部分を代替可能に…人間でいえば上位16%のレベル
人工知能=人間の脳、ではない?
2つ目は、コンピューター技術に支えられた人工知能は、人間の知能に近づくかという点である。ディープ・ラーニングなどに代表されるように、人工知能は急速にその能力を高めてきている。確かに、人間の反応は、単純にいえばシナプス(神経細胞と神経細胞の接合部)を通したニューロン(神経細胞)間の電気信号の伝達と理解することができる。
しかし、人間が人間である根幹は、自分は「一なる存在である」という意識であろうが、意識がニューロンよって既定されているわけではない。脳にある千数百億個のニューロンのうち、意識とはほとんど無関係の小脳に約8割のニューロンが存在する。つまり、電気信号を伝達するニューロンそのものに意識の核があるわけではない。意識にとって重要なのは、ニューロンの数ではなく、組織化されたニューロンが統合と差異を同時に存在させる、言い換えれば、最大の多様性を抱合するひとつの統合された単体であることといえる(詳細は『意識はいつ生まれるのか』<亜紀書房、M.マッスィミーニ&J.トノーニ著>参照)。実は、コンピュータシステムにとって、「最大の多様性を抱合する一つの統合を設計する」ことは、非常に難しい課題である。
以上より、デジタル部品の集合体であるコンピューターを基とする人工知能が、人間のように意識を持つようになるとは考えにくい。『ポスト・ヒューマン誕生』(NHK出版)の著者であるR.カーツワイルが想定するほど容易ではない(同氏の主張については『How to Create a Mind』<12年>を参照)。この意味では、人間は容易には人工知能に駆逐も同化もされないのではないだろうか。
ショッキングな数字
しかし、安心してはいられない。最近、「東ロボくん」が話題になっているが、これは国立情報学研究所が中心となって11年に立ち上げた「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトにおいて、研究・開発が進められる人工知能の愛称である。東ロボ君の進歩は著しく、現在、偏差値は60を超え、国立33大学合格のA判定を得ているが、この研究リーダーである新井紀子教授は、東ロボ君の偏差値が東大に合格する70以上になることは難しいと考えているようだ。
「やはり、人工知能では東大には入れないのか」と安心をしてはいけない。偏差値60というのは、上位から15.9%ということであり、100人なら16番目という意味で、その下位には84人もいることになる。つまり、人工知能がホワイトカラーの一般的な仕事のかなりの部分を代替することが可能であるということである。これは、かなりショッキングな数字ではないであろうか。
次回は、本稿における考察を踏まえ、技術革新がもたらす経済システムの成り立ちの変化について考えてみたい。
(文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授)