地方創生の掛け声とは裏腹に、東京一極集中に一段と拍車がかかっていることが総務省のデータで明らかになった。
1月31日、総務省が発表した外国人を含む2019年の住民基本台帳人口移動報告によると、東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)は転入者が転出者を14万8783人上回る転入超過。前年よりも8915人も増加した。東京都に限っても転入超過は8万2982人で、前年比3138人増。大都市圏では、大阪圏(大阪府、兵庫県、京都府、奈良県)、名古屋圏(愛知県、岐阜県、三重県)は転出超過(人口流出)となっている。
47都道府県別にみると、転入超過は多い順に東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、大阪府、福岡県、滋賀県、沖縄県の8都府県のみ。残りの39道府県は人口流出組となった。転出超過数が多いのは広島県が8018人。茨城県7495人、長崎県7309人、新潟県7225人、福島県6785人の順となった。
興味深いのは大都市間でも格差が顕著になっている点だ。21大都市(東京都特別区部と20政令指定都市)の状況をみると、転入超過は東京都特別区部(6万4176人)、大阪市(1万3762人)、川崎市(1万618人)、横浜市(1万306人)など12都市。一方、転出超過は北九州市(2305人)、浜松市(1477人)、広島市(1220人)など9市。人口50万人以上の政令指定都市でさえも人口流出が起こっており、広島市、岡山市、静岡市、北九州市の4市は前年よりも流出人数が増えている。大都市の二極化現象である。
1719ある全国の市町村のうち8割は、日本人人口流出
地方の人口移動の現状はどうなっているだろうか。全国1719市町村(東京都特別区部は1市扱い)の日本人についてみると、転入超過は351市町村で全体の20.4%。転出超過(人口流出)は1366市町村で全体の79.5%、残りの2村は転入超過数ゼロとなった。人口流出市町村の割合が9割を超えるのは秋田県、宮崎県、北海道など10道県。秋田県は25の市町村すべてが転出超過である。宮崎県は26市町村のうち25市町村が、北海道は179市町村のうち170市町村が転出超過。過疎化に歯止めがかからない。
地方の厳しい実態が浮かび上がっているが、外国人を含むデータでみると、状況はやや改善される。1719市町村のうち転入超過が443市町村と全体の25.8%にまで上昇するのだ。それだけ外国人の転入者が多いということである。外国人労働者の受け入れ先となっている地方の市町村では、日本人だけでは人口流出だが、トータルでは転入超過となるケースがそこそこある。過疎化を防ぎ、人口流出を食い止めるためには外国人労働力が欠かせないということだ。
地方で転入超過数が多い20町村の実情
今回のデータには注目すべき市町村の一覧も掲載されている。「転入超過数の多い上位20町村」だ。このうちトップ5を紹介しよう。
順位 町村 転入超過数 対前年増減数
1位 島本町(大阪府) 777人 473人
2位 阿見町(茨城県) 433人 173人
3位 東郷町(愛知県) 395人 72人
4位 中城村(沖縄県) 389人 - 49人
5位 幸田町(愛知県) 350人 -258人
上位20町村で転入超過数が多かったのは、島本町以外では12位・東浦町(愛知県)413人増、14位・日の出町(東京都)202人増などだ。
今回1位となった島本町はサントリーの山崎蒸溜所があることでも知られる。JRと阪急の駅があり、大阪、京都のベッドタウンとして人口が増加中。この1、2年のあいだに大型マンションや戸建て住宅など805戸が建設されたという。上位の町村は大都市近郊のベッドタウンであったり、企業誘致、土地区画整理事業などで住民が増え人口増となっている。地理的条件だけでなく各自治体の努力や政策効果も表れているのだろう。
転入超過=人口流入というと町が活性化しているイメージだが盲点もある。日の出町のケースだ。2019年の転入超過数は232人で前年の30人から大幅に増えた。周囲の自然環境や子育て支援制度に魅力を感じて転入してくる子育て世代もいるが、多くは高齢者だ。同町には老人ホームをはじめとする介護保険施設が10以上もあり、新たな入所者が転入超過の要因となっている。
全体の構図としては東京一極集中と、地方の疲弊が解消に向かうどころか加速しているのが実態だ。一極集中が進む東京は五輪開催に向けインフラ整備や再開発が進む。大災害や新型肺炎のような感染症発生時のリスク管理をどこまで徹底できるのか。集中がもたらすリスクは見過ごせない。
一方、人口流出に悩む全国8割の自治体の衰退は深刻だ。政令指定都市でさえ人口が流出している状況下、地方の疲弊をどう食い止めるのか。山形県ではついに百貨店が消滅した。
画一的な地方創生策ではなく、各地の特性に合わせた活性化策を国、県、市町村が一体となって模索していかないことには改善はほど遠い。
(文=山田稔/ジャーナリスト)