しかし、今回の選挙では、ヒラリー氏がウォール街から資金援助を受けているということが大きなネガティブ要素となっている。金融業界と結びつくことで票が集まらないどころか、むしろ逆風が吹く要素になってしまっているわけだ。
これは、米大統領選における「票」と「金」という2つのバランスが、大きく変化しつつあることを示しているのではないだろうか。これまでは、金があれば、メディアを使って世論を“買う”ことができた。金がなければ、メディアを動かせないため、世論を“買う”ことはできなかった。
だからこそ、候補者は金のほうを向き、ウォール街に対して媚びを売ってきたのが現実である。しかし、それが票に結びつかないということになれば、候補者は自ずとウォール街に背を向けることになる。
朝日新聞の慰安婦報道謝罪はなぜ起きた?
これは、インターネットの発達によるところも大きいだろう。これまでのメディアといえば、新聞やテレビなど、一方通行の情報発信が中心であった。また、同時に社会的な背景として、地域コミュニティや情報の分断化が進んだ。日本の核家族化のように、人々がバラバラになり、大きな集合体を維持することが少なくなったのだ。
そこに、「オールドメディア」や「レガシーメディア」といわれる新聞やテレビが一方的に情報を投下する、という構図になっていた。だからこそ、メディアを買収してコントロールすることが、選挙において重要な意味を持っていたのだ。これは、世論形成においても同様である。
しかし、ネットが発達した今、この構図は壊れつつある。今や、ネットは一部の専門機関や研究者だけでなく、世界中の老若男女が簡単に使いこなし、情報を取得したり意見を発信したりできるツールとなっている。
ネットにはさまざまな機能があるが、特に「アーカイブ」「議論・評論」「情報収集」「拡散」などの機能がある。これらが、レガシーメディアとネットの世界をガラリと違うものにしているといえる。
例えば、ある情報に触れた時、それが正しいものであるか、どういった経緯で生まれたものか、ネットを使って精査することができる。ネットメディアやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などによって、議論や検証、拡散が行われ、仮に間違っていた場合は徹底的に否定され、嘲笑の対象にもなり得る。
これはアメリカのみならず世界中で起きていることであり、日本においても同様である。例えば、2014年に朝日新聞は慰安婦問題に関する過去の報道について、記事訂正と謝罪を行った。これも、前述したようなネットによる議論や検証の動きが過熱したことが、少なからず影響した例といえよう。
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