4月に予定されていた中国の習近平国家主席の国賓来日に黄信号が灯った。時事通信は24日、『全人代の延期決定』と題する記事を配信した。
「中国全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会は24日、湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎の対策を優先し、来月5日開幕予定だった全人代の延期を正式に決定した。新たな会期は別途定める」(時事通信より)
全人代の延期、1985年以来初の異常事態
外務省外郭団体の職員は全人代の延期について次のように語る。
「全人代は中国の国会にあたる国家の重要会合です。しかし、日本のように国権の最高機関というわけではありません。中国では基本的に共産党指導部が綿密な政策決定や立法を行うので、どちらかと言えばセレモニー的な意味合いが強いです。会期も毎年10日程度しかありません。
とはいえ、制度的に全人代の決定は国家の決定になるので、開かれないというのは非常に危機的な状況です。1985年に3月に固定開催されるようになって初めての延期です。そんな全人代を延期しておいて、国家主席が日本に国賓として訪問するというのは、さすがに難しいのではないでしょうか。対外的にも、国内的にも批判が殺到するでしょう。当初、習氏の訪日は中国国内でも重要視されていました。しかし中国政府内はそれどころではない状況です。いまだに猛プッシュしているのは日本側だという印象はぬぐえません」
アベノミクス最後の頼み「インバウンド」も画餅に
今年年初、中国・武漢市周辺で新型コロナウイルスの感染拡大が発覚した際から、習氏の訪日は危ぶまれていた。
習氏の訪日には、日本政府も期待していた節がある。そもそもマスコミ各社に「死に体」と評されるアベノミクスをなんとかしたいという、日本政府の思惑もあっただろう。一連の経済浮揚策で唯一、成功したといえなくもなかったのが、訪日外国人旅行者の増加だ。外国人客数は2013年の1036万人から2019年には3188万人(日本政府観光局調べ)に増えている。昨年生じた日韓関係の悪化を踏まえ、日本政府は代替措置として中国からの集客を強化し、東京オリンピックを起爆剤にして4000万人の達成を目指していた。それが、今回のコロナウイルスで画餅に帰すのは時間の問題だ。
政府、財界、マスコミが期待した「習氏の訪日」
自民党関係者は次のように話す。
「習近平国家主席が訪日するというのは、日本に関心のある中国の観光客を呼び寄せる意味で大きな意味を持ちます。日韓議員連盟常任幹事の二階俊博自民党幹事長は、かつて超党派の議員連盟『北京オリンピックを支援する議員の会』の副会長を務めるなど、中国通でもあります。政府は日韓関係の想像以上の悪化で韓国の訪日客が減少したこともあって、二階氏に泣きついたということのようです。訪日が無事終わるまで、『中国を無駄に叩くな』という不文律が自民党の各主流派にありました。
また今回の習氏の訪日は対米、北朝鮮外交で思ったような成果が残せていない安倍晋三首相にとっても大きな外交的な成果につながるはずでした。新型コロナウイルス問題発覚以降は、中国政府以上に習氏の訪日を誰よりも望んでいたのは日本政府だと思います。
米中経済摩擦もあって、『中国をハブとしたサプライチェーンから転換すべきだ』という議論は盛んにされましたが、今現在も達成されていません。日本経済団体連合会(経団連)は中国との関係悪化やヒト・モノの移動が制限されることを恐れていました。習氏の訪日には賛成でしょう。
それに加えて、日本の大手メディアの一部は、中国の要人を国際ニュースの情報源にしています。これは戦前から続く伝統です。欧米での報道は一歩遅れをとっても、中国ニュースは強いというのが日本メディアの特徴でした。当然、周氏の訪日で新しい情報源の獲得の可能性も増えますし、日本国民の機運が高まれば記事もたくさん読まれます。ただ今回の新型コロナウイルスの報道はそうはいかなかったようですが…」
ブルームバーグは25日、「東京株式相場は大幅続落し、TOPIXと日経平均株価の下落率は一時4%を超えた。新型コロナウイルスのさらなる感染拡大で世界経済への懸念が高まり、電機など輸出関連、医薬品中心に全業種が安い」と速報した。チャイナリスクの顕在化はもはや目に見えて明らかだ。政府や財界、マスコミが期待する「習氏の訪日」というイベントだけで、この局面を覆すのは難しくなりつつある。
(文=編集部)