「主人は立派な人やと思いました。行ってらっしゃいと(大阪拘置所に)見送りました」
2月19日午後、真っ赤なコート姿で大阪地裁から出た籠池諄子被告(63)は朗らかに語った。「補助金詐欺」の判決の言い渡しは午前10時の予定だったが、弁護側が検察の論告に誤りがあると主張したため弁論がやり直された。さらに法廷で突然、諄子氏が「お父さんを助けてください」と叫んで弁護士の腕をつかむなどして混乱し、30分の休廷も余儀なくされ、判決の言い渡しは11時になった。罪状のすべてが認められた夫は、懲役5年の実刑。一部、共謀などが認められなかった諄子氏には執行猶予が付いた。
諄子氏はこの日、結審公判で「黄金の夫婦道中日本晴」などと得意の俳句を詠んだ夫の籠池泰典被告(67)と仲良く手をつないで、野口卓志裁判長の判決を聞いていた。起訴事実は、夫妻が豊中市の国有地に「瑞穂の國記念小學院」という小学校を建設するため、金額を水増しした工事会社との虚偽の契約書を提出して国の補助金5600万円を騙し取り、さらに運営する幼稚園で「病弱児童や障害児などを支援している」として大阪府と大阪市から補助金約1億2000万円を騙し取ったというもの。起訴状通りなら詐取した総額は1億8000万円近く、巨悪である。夫婦は大半を否認していたが、判決では「泰典被告は障害児ではない園児の診断書を改ざんして府に提出するなど手口は巧妙で大胆」などと悪質性を指摘した。
「控訴する方針」という弁護団は、再び収監された泰典被告の即時保釈を求め、21日に保釈された。初公判などで泰典被告は盛んに「口封じのための国策捜査、国策逮捕、国策勾留は絶対許せません。不徳の致すところですが、本質的な国有地(売却)等、忖度の問題から目くらましをしている」などと述べていたが、判決は予想通り「国策捜査」などには言及しなかった。
ヒロイズムに酔う籠池氏に問いたいこと
森友学園問題の疑惑の中心は、豊中市の国有地購入費が、「地下に埋まっている」ごみの撤去費用という名目で8億円も安くなったというものだ。開校予定の小学校の名誉校長が、夫妻と親しくしていた安倍晋三首相の妻、昭恵氏だった。17年3月の会見で籠池氏が「神風が吹いたと思った」と表現した信じられない額の値下げは、当然、財務省幹部ら首相の取り巻きが画策したものに違いないが、これは散々報じられたので割愛する。
大阪地検特捜部は、都合の悪い公文書を無断破棄したり改ざんした佐川宣寿前理財局長以下、財務省幹部らを公文書改ざんの罪にも問わず、不起訴とした。「検察の忖度」だったのか、証拠的に立件は難しいと判断したのか。彼らを「無罪放免」にした特捜部長は栄転した。
今判決で朝日新聞は「忘れるわけにいかぬ」と題する社説を載せたが、残念ながら森友問題はもはや過去のものとなりつつある。そして「妻が関係していたなら総理大臣も国会議員も辞める」と啖呵を切っていた安倍首相を利してしまったのは、この夫妻でもある。詐欺案件で「いい加減な夫婦」というイメージが広まったことで、安倍首相は大いに助かった。実際、諄子氏はかつて「鉛筆舐め舐めして」などと、インチキな書類をつくっていたことを幼稚園の父兄のたちの前で堂々と話していたこともある。
夫婦が10カ月に及ぶ勾留から保釈された18年5月、「為政者というのはしっかり本当のことを正々堂々と伝達すべきではないのか」などと滔滔と話していた泰典被告は、その後、たびたび講演会も開き、最近になって『国策不捜査』なる著作も文藝春秋から出版した。
だが、ヒロイズムに酔っている籠池氏にひとつ問いたいことがある。3年前、もし豊中市の木村真市議と朝日新聞社豊中支局の記者の尽力で巨額の国有地値引き問題が露呈しなかったら、今頃、籠池氏は「昭恵夫人と懇意にしていてよかった」とばかりに、無事に開校したであろう瑞穂の國記念小學院のトップとして「我が世の春」を謳歌していたのではないのか。それでも国有財産の不当な値引きを暴露して、安倍政権を糾弾したのだろうか、と。