安倍首相も認めた“ヤラセ会見”はいつまで続く?フリー記者“排除”で原稿読み上げの茶番
従前、安倍晋三首相の記者会見が「ヤラセ」なのは公然の秘密だった。その場で初めて記者の質問を聞くはずの安倍首相が、いつも原稿を読み上げて回答しているからである。
2020年3月2日、参議院予算委員会で安倍首相自身が記者会見の「ヤラセ」を認めた。蓮舫議員(立憲民主党)の質問に、以下のように答弁したのだ。
「いつもこの総理会見においてはある程度のこのやり取り、やり取りについてあらかじめ質問をいただいているところでございますが、その中で、誰にこのお答えをさせていただくかということについては司会を務める広報官の方で責任を持って対応しているところであります」
つまり、「記者会見」と称しても、あらかじめ質問者と質問内容、安倍首相の回答が決まっており、各人はセリフをしゃべっているようなものなのである。「茶番劇」とは、まさにこのことだ。
記者会見参加に推薦状が必要
「私たちフリーランスが『こんな記者会見はおかしい』と訴え続けてきたのに、国民はほとんど耳を傾けてくれませんでした」と嘆くのは、選挙ルポの第一人者で、2017年に『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』(集英社)で開高健ノンフィクション賞を受賞した畠山理仁氏。
「首相官邸と記者クラブ(新聞社やテレビ局、通信社などで構成される任意団体)が『記者会見ごっこ』をしているのもおかしいんですが、それ以前の問題として、両者がフリーランスを記者会見に参加させないよう理不尽な条件を設定しているのがおかしいんです」(畠山氏)
2009年5月16日、当時の民主党の鳩山由紀夫代表は、フリーランスも参加している記者会見で「私が政権を取った場合、記者会見はオープンなので、どんな方にも入っていただく」と明言した。長年の自民党政権下では、フリーランスは首相の記者会見に参加することができなかった。
同年9月16日、民主党政権が誕生し、フリーランスは首相官邸へ出向いた。ところが、彼ら彼女らは鳩山首相の就任記者会見に入れなかったのである。鳩山首相は政権を取った途端、自民党政権と同様に記者クラブとなれ合う道を選んだのだった。
当然、フリーランスは猛反発。鳩山首相の約束違反を批判しつつ、首相官邸に記者会見参加を要求し続けた。それが実現するのは、2010年3月26日の鳩山首相の記者会見。ただし、以下の条件がつけられた。
「記者クラブ加盟社や大手出版社、大手ネット企業の媒体で、毎月、首相の動向に関する署名記事を書いており、その媒体の推薦状を提出すること」
畠山氏が言う。
「首相の動向を報道するために記者会見に参加するのに、すでに首相の動向を報道していることを記者会見の参加条件とするのは、順序が逆です。しかも、大手の媒体で、毎月、署名記事が書けるフリーランスは少数でしょう。公務員(首相も特別職の公務員)の記者会見に参加するのに、推薦状が必要というのは常軌を逸しています」
しかし、以降、現在の安倍首相の記者会見まで、フリーランスの参加条件は変更されていない。
記者会見で菅直人首相の本音を聞き出す
筆者は、鳩山首相の記者会見で2回、菅直人首相の記者会見で1回、推薦状を提出せずに参加を申し込んだが、いずれも拒否された。
このことについて、2010年6月8日、畠山氏が菅首相の就任記者会見で質問している。
「フリーランスの畠山と申します。菅総理の考える自由な言論についてお尋ねします。今回でフリーランスの記者が総理に質問できる会見は3回目となりますが、参加するためにはさまざまな細かい条件が課されています。また、3回連続して参加を申請し、断られたフリージャーナリストの1人は、交渉の過程で官邸報道室の調査官にこう言われたといいます。
『私の権限であなたを記者会見に出席させないことができる』
このジャーナリストは、これまで警察庁キャリアの不正を追及したり、検事のスキャンダルを暴いたりしてきた人物なんですが、言わば権力側から見たら煙たい存在であると。総理は、過去の活動実績の内容や思想・信条によって、会見に出席させる、させないを決めてもいいというご判断なんでしょうか。うかがえればと思います」
菅首相は、こう答えた。
「私は一般的にはできるだけオープンにするのが望ましいと思っております。ただ、何度も言いますように、オープンというのは具体的にどういう形が望ましいのかというのは、しっかりそれぞれ関係者のみなさんの意見も聞いて検討したいと思っております。たとえば私などは、総理になったらいろいろ制約はあるかもしれませんが、街頭遊説などというものはたぶん、何百回ではきかないでしょう、何千回もやりました。それはいろんな場面がありますよ。隣に来て大きなスピーカーを鳴らして邪魔をする人もいたり、集団的に来て悪口を言う人もいたり、いろんなことがあります。だから、いろんな場面がありますので、できるだけオープンにすべきだという原則と、具体的にそれをどうオペレーションするかというのは、それはそれとして、きちんと何か必要なルールなり対応なりをすることが必要かなと思っています」
結局、菅首相は「自分の悪口を言う人には、記者会見に来てほしくない」と言っているのである。この本音を聞き出せたのは、フリーランスが首相の記者会見に参加していたからこそだ。
ところで、本連載で追及してきたカジノ管理委員の樋口建史氏(元警視総監)の利益相反疑惑。カジノ管理委員会の記者会見で質問しようと調べてみたところ、同委員会も発足早々、記者クラブとなれ合っていたことがわかった。次回、詳しく報告する。
(文=寺澤有/ジャーナリスト)