東京をはじめとした7都府県に、緊急事態宣言が発令された。地域によって状況は異なるが、東京の新宿歌舞伎町や銀座などの繁華街からは人の姿が消えている。
宣言の期限とである5月6日までに感染者数の減少が期待されているが、そこで目標達成とはいかない。いち早く緊急事態宣言を行った北海道では、3月19日で一端解除となったものの再び感染者が増加しており、封じ込めに成功したとはいいがたい状況だ。
緊急事態宣言が解除されると感染の終息ムードが漂い、多くの人が出歩くことにより、感染が再び拡大してしまう。そんな恐れもありながら、長期間の自宅待機を余儀なくされた人たちは、危険を忘れて外出してしまうのだ。
そんな緩みは、多数の犠牲者を出しているイタリアでも発生。4月初頭からは各地で外出禁止令を守らずに外出する人が増えている。イタリアでは感染拡大防止のため外出先や目的を書いた証明書の所持を義務づけ、違反した場合には最大3000ユーロ(約3万5000円)の罰金を定めている。
それにもかかわらず、勝手に外出する人たちで市場や繁華街がごった返していると現地でも報じられている。
中国、新たな感染拡大も発生
そんな現象は、強権を発動して都市封鎖を行った中国でも起こっている。中国では、祖先を祀る年中行事である「清明節」の4月4日を、新型コロナウイルスによる犠牲者を悼む全国追悼日と指定。オンラインゲームや配信サービスなども、この日はすべて停止することを命じられた。ところが、全国的な追悼日を指定したことで、逆に危機感が緩んだ。
水墨画の題材になった山々で知られている江蘇省の景勝地・黄山では、4日から2週間にわたって「入場無料」と告知された。終息ムードのなかでの施策に、5日には数万人の観光客が押し寄せる騒ぎとなった。
同地を管理する管理委員会では、入場するにあたっては「健康コード(政府の発行する、健康体であることを示す証明)」を提示させるほか、必要な検査も行うとしていた。ところが、中国のネット上に次々とアップされた映像を見ると、文字通り過密状態で、なかにはマスクをしていない人々もいるという有様だった。
中国では、この騒動に対して無症状の感染者が混じっていることを心配する声や、まだ終息しきっていない状況で観光地を無料開放する施策を行う江蘇省への批判の声が溢れている。
騒動を受けて無料開放はすぐに中止となったが、強権的な都市封鎖を行った中国ですら、終息ムードによる緩みは否めないのだ。8日に、長らく閉鎖されていた武漢の封鎖が解除されたことで、習近平国家主席をはじめとして中国メディアのニュースに登場する各地の政府関係者のなかには、マスクをせずに取材に応じる者も出ているほどである。
武漢の封鎖解除と聞いて、「もはや流行は終わった」と思っている人が多いようだが、実際にはまだ移動制限は続行中だ。しかし、全国追悼日から武漢の封鎖解除といった一連の流れを受けて、緩みが生じているのは間違いない。
そんな中国では、新たな感染拡大も始まっている。1月以降に感染が拡大した地域が終息する一方で、東北部の黒竜江省では感染が拡大している。中国メディアでは、ロシアから感染が広がっているのではないかと指摘されている。実際、これまで封じ込めに成功してきたと思われていたロシアでも、4月から感染者の増加が問題化し、モスクワなど主要都市で封鎖も始まっている。
外出禁止令などによるフラストレーションが溜まった反動で気が緩み、制限解除後の外出による感染の再爆発という負の連鎖は、世界中で起こり得る。
日本国内でも、自粛要請が強化されていることによって、向こう1カ月くらいは「仕方がない」と外出を控えたり休業する店舗は増えるだろう。だが、経済の低迷を恐れて宣言解除の時期を見誤れば、最悪の事態が想定される。
終息の宣言は、人が街に溢れる新たなステージの始まりとなる。それだけに、自粛を呼びかけるよりも難しいということを中国などの様子から学ぶべきだろう。
(文=昼間たかし/ルポライター、著作家)