その39項目は、「政治・社会環境(政情、治安、法秩序等)」や「健康・衛生(医療サービス、下水道設備等)」「学校および教育(水準、およびインターナショナルスクールの有無等)」「自然環境(気候、自然災害の記録)」など10のカテゴリーに分類されている。あくまで駐在員が生活するための環境を前提としているため、観光客に魅力的かどうかということではない。
また、ウエイト配分の内容が開示されていないため、何がどの程度重要視されているのかはわからない。ただ、日本のように、これだけ地震が頻発して自然災害も多いと、さすがに印象が悪くなるのではないか。
「海外に赴任する場合は『ハードシップ手当』という手当があります。海外赴任に伴う精神的・肉体的な苦痛に対する金銭的報酬、というのが定義です。たとえば、日本の電車は時間に正確で便利ということで高く評価されますが、欧米人が日本で仕事をする上で大きな壁となっているのは、第一に言葉です。それから、住居に関しては、日本は狭いですね。たとえば、ドイツ語の教育機関は神奈川にあるのですが、小さい子どもを持つドイツ人はその近くに住むことになります。そうすると、都内への通勤は不便に感じてしまうかもしれません」
文化の違いも大きく影響
田中氏はインターナショナルな視点を強調するが、マーサーの本居地はニューヨークであり、ランキングの査定は欧米人目線に近いものであることは疑う余地がない。とはいえ、「多様性」を軽視しがちな日本社会では、アジアからのビジネスパーソンにとっても不便さを感じるケースがあるかもしれない。
たとえば、イスラム教徒は戒律により、豚肉や豚肉を原材料に使った食品を食べないが、日本人は子どもの頃から給食などで「なんでも食べるように」と教育されてきた。欧米にはたくさんのヴェジタリアンがいるが、日本人は比較的少ないため、日本にはヴェジタリアン向けレストランが少ない。こういう食文化の違い、食に対する考え方の違いも生活環境に影響しているだろう。
15年度に日本を訪れた外国人観光客数は、前年度比45.6%増の2135万9000人となった。2000万人の大台を超えたのは初めてだ。20年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、訪日外国人はますます増えるだろう。
日本ブームを伝える報道も多く見られるが、日本をグローバルなビジネス拠点にしていく上で、観光客の視点ではなく、日本に赴任するビジネスパーソンの視点で日本を見つめ直すのも有意義なことである。
(文=横山渉/ジャーナリスト)