緊急事態宣言が5月末まで延長し、新型コロナウイルスによる経済の停滞が大きな社会問題になってきました。百貨店、ショッピングモールなど商業施設の休業が長く続き、飲食店も閑散とする中で営業は20時までと短縮営業が要請され、デリバリーなどに生き残りをかけて事業継続しているところも少なくありません。それが25日間延長されるのです。
ただ、感染者のデータを眺めると減少傾向を示していることは確かです。早くて5月20日頃には日本全国での一日の新規感染者数が安定して100人を切って、専門家会議の言う解除の条件がそろう可能性があります。おそらく延長は長くても5月末までで、6月には緊急事態宣言が解除され、徐々に経済が元のレベルに戻ることが予想されます。
その予測の最大の根拠は、コロナウイルスはそもそも風邪のウイルスなので夏場は流行しづらいということです。今回の流行では、確かに南半球で季節が夏の国々でも感染者が増加しました。人類に抗体がない新型のウイルスですから、感染者は増加するようです。しかし南半球の国々では、流行しても死者が驚くほど少なかった。
4月15日時点のデータ(南半球はこの時点で季節的には日本の10月ぐらいです)では、北半球で感染が拡大したイタリアやスペインでは100万人あたり300人を超える死者が出ていましたが、南半球ではブラジルが7人、オーストラリアが2人というレベルで、世界的なパンデミックが起きた時点で季節が夏だった国では、死に至る重傷者の数はとにかく少なかったのです。
5月に入ると南半球が11月の季節に相当するようになり、そこで急激に死者が増加しました。5月上旬の段階でブラジルの100万人あたりの死者数は40人超に急増したのです。おそらくこれから冬を迎えると、ブラジルでもオーストラリアでも南アフリカでも新型コロナが猛威を振るうことになりそうです。
その一方で、私たちが期待するように日本でのコロナの流行は夏になって一段落を迎えるでしょう。7月になって連日真夏日が続くようになれば、コロナの死者数は目に見えて少なくなり、国民がマスクなど気にせずに街に戻る日がやってきます。そして、その段階で大きな社会問題が発生するでしょう。コロナに伴う経済ショックです。
大規模な経済封鎖は正しかったのか?
新型コロナの爪痕として自粛がこれほどの長きにわたったことで国民の収入が途絶え、そのことで個人消費が2020年の夏には大きく停滞することが予測されます。フリーランスや仕事が途絶えた非正規従業員を中心に、お金がないためお金を使えないという問題が表面化して、そのことで日本経済が目に見えて停滞することになるのです。この段階で予測されることは、世論が手のひらを返すように自粛政策を批判し始めることです。
5月頭時点での我が国の感染者数は1万5000人、死者数は500人程度です。あくまで数理モデルからの予測ですが、この夏のコロナ終息時点では感染者数2万5000人、死者数800人程度まで増加すると思われます。そこで国民の間に疑念が持ち上がるでしょう。「そのために、これだけの経済的な犠牲を払ったのか?」という疑問です。
コロナ発生時点では、最悪の場合の死者数はもっと多いと考えられていました。そして「生命は何よりも重たい。とにかく頑張って命を守る行動をしよう」とメディアは私たちに呼びかけました。しかし現代社会はそもそも命を奪うリスクについて現実的な折り合いを見つけながら成立しています。
日本の交通事故死者数は年間3000人程度です。車は命を奪うこともあるのですが、車を止めてしまうと経済がまったくまわらなくなる。だから交通ルールをつくり、事故死者数を極小化するようにしながらその存在を認めているわけです。
日本ではインフルエンザ関連の死者数も年間で1万人程度にのぼります。家族がインフルエンザにかかると他の人に移さないように出社が禁止される会社も多いのですが、だからといって隔離されたり強制入院させることはありません。そんなことをしていると医療崩壊を起こして、がんや糖尿病、事故など他の原因から命を救わなければならない人の対応ができなくなるからです。
それと比較して、死者数が1000人に満たない新型コロナにこれだけの警戒をするのが正しいのか? という議論が7月になると巻き起こるはずです。そもそも新型コロナが感染拡大を始めた当初の専門家チームの危惧として、このまま放置すれば死者数が42万人を超えるという予測があったことで、ここまで大規模な経済封鎖が行われたという事情がありました。
しかし、緊急事態宣言が5月末まで続くことで今度は国内で80万人規模の失業者が発生するという新たな予測が出てきました。過去、日本で大型の不況があると、年間の自殺者数が1万人程度増加しているという事実があります。このままいくと、新型コロナは経済が原因で悲惨な数の犠牲者を生み出す可能性が出てきたのです。
そこで予想されることが、この夏のアフターコロナ対策議論では、コロナは医学的な問題よりも経済問題として取り扱われるように事態が変化します。これはわかりやすい議論でしょう。観光業や飲食業で倒産が相次ぐことから、国は金融緩和を行って地方銀行や信用金庫がこれらの企業を下支えできるように精いっぱいの経済対策を打つはずです。
コロナ再流行で新たな問題
さて、今回の記事の論点は実はそこではありません。そのように新型コロナが経済問題になった後、あっという間に秋が過ぎ11月がやってきます。その頃には日本にも新型コロナ流行の第二波がやってきます。これは過去のスペインかぜの流行でも起きたことです。まだこの段階で国民の大半が抗体を持っていないため、コロナウイルスは冬が近づけばまた再流行するのです。
ここで新しい問題が起きます。政府が緊急事態宣言を発令するかどうか、そして国民に自粛を求めるかどうかの判断です。この段階ですでに日本経済はリーマンショックを超える大打撃を受けている状態のはず。そこで新たに自粛をすべきなのかどうか、政府は決断を迫られます。
経験的にわかることは、この春に行ったほどの自粛をしなくても、おそらくコロナ再流行の死者数は1万人以下に抑えられるということです。医療崩壊が心配だというのであれば、新型コロナを指定伝染病から外せばいという議論もされるでしょう。強めのインフルエンザとして扱えば、大きな病院でもあそこまでの負担がかかることはなくなります。
一方で、この冬も同じようにコロナ流行を封じると決めたら、来年5月までほぼほぼ7か月間、今回行ったのと同じように日本経済を止めなければなりません。秋に1カ月完全に感染を抑えこんでも、人が街に出るようになれば、また感染者は広がるからです。そうなれば2021年は2020年をはるかに超える不況の年になってしまいます。
そのことを考えると、おそらくこの秋に日本政府がとる政策は、自粛ではなく「コロナに気を付けながらこれまで通り経済活動を行ってください」というコロナ対策の180度の大転換になると思われます。実際に風邪の症状が少しでもある人までPCR検査を拡大して隔離するように政策を変更すれば、その他の人は普通に外出して接触しても新型コロナは広がらないという研究も出始めています。
さて、ここで新たな問題が発生します。
政府がいくら「コロナは当初想定されたような大被害をもたらす病気ではありません。日常的に生活を続けてくれても大丈夫です」とアピールしても、国民の4割ぐらいはそれを信じないでしょう。今回のコロナ問題で首相官邸の言っていることがころころ変わることを国民が目撃しています。そこから「今度は外出しろだって、まったく政府は何を言っているのだろう」と国民の多くが白い目で政府を見るようになるわけです。
「経済を回すためには普通に外に出てください」
「和牛が倉庫に山積みになりそうです。みなさん飲食店に出かけておいしい和牛をたくさん注文してください」
「リモートワークでは仕事にならないでしょう。どんどん飛行機に乗って出張して地方のホテルに宿泊してください」
そういった趣旨のお願いを政府が国民に伝えるのですが、今度は攻守交替して国民の側ががんとして動かない可能性があります。なにしろ新型コロナは重症化すると命にかかわる新しい病気なのです。日本経済のために外出して消費をして、それで命を落とすのは嫌だと普通の国民なら思うでしょう。
「とにかく私以外の誰かが政府の言うことを聞いて、経済崩壊しないように消費してほしい」
と家から出ない多くの国民が他人に願うようになります。コロナが流行しているさ中に居酒屋で宴会する若者や、朝からパチンコ屋に出かける一般人、団体旅行にでかける中年の一団などがニュースやモーニングショーで「よくやった。えらい」と報道され、外出を促すための食事券や旅行券の交付が国会で議論されるようになるでしょう。
それでも、少なくとも私は政府の呼びかけに反して外出しないまま2021年の冬を過ごすことになりそうです。なにしろ50代後半で死ぬのは、私は絶対に嫌なのですから。
(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)