もちろん、会場に乱入して自分たちの演説をすることに対してバッシングもあります。反対に、「やり方はよくないかもしれないが、彼らの主張していることは正しい」という意見もあります。
サンダース氏がヒラリー・クリントン氏と討論したときも、クリントン氏は「あなたはBlack Lives Matterを支持していますか。(黒人だけでなく)すべての命が大事ではないんですか」と追及しました。
しかしサンダース氏はクリントン氏に、「Black Lives Matter」と答えたのです。なぜ彼はあえてそう明言したのか。
非暴力直接行動の源流
サンダース氏の姿勢は、彼が学生非暴力調整委員会(SNCC)や人種平等会議(CORE)に参加した1960年代初頭の活動家としての体験に裏付けられています。
非暴力直接行動のコアとなる組織に南部キリスト教指導者会議(SCLC)があり、公民権運動の指導者であるマーティン・ルーサー・キング牧師らによって結成されました。リーダー層が担っていたSCLCよりも、「もっと直接行動を参加民主主義的にやろう」と若い人たちが主張し始め、その結果生まれたのがSNCCで、COREが組織した「フリーダム・ライド」(自由のための乗車)運動という直接行動に参加します。
当時、アメリカ南部の公共施設は、白人と黒人のものに分けられていました。その南部白人用の施設に、白人と黒人の活動家が一緒に入るのです。警察から暴力を受けて逮捕されますが、次から次へと若い活動家が直接行動に参加し、また逮捕されました。繰り返し逮捕者を出し、刑務所を活動家であふれさせようとしていたのです。
そのような活動に対して批判も起きました。アラバマ州バーミングハムでキング牧師は「ゆっくりやろう」と主張していましたが、結局は学生たちに押されてキング牧師もデモに参加し逮捕されます。そして彼は「非暴力直接行動は葛藤をつくり、テンション(緊張)をつくらなければならない」と『バーミンガム刑務所からの手紙』で書いています。
そこでは、「迷惑をかけなければならない」と主張しているのです。暴力的な迷惑はだめだが、非暴力的な迷惑をかけなければ相手は「何が、なぜ、どのように悪いのか」わかりません。権力の正体・露骨な暴力を引き出すことを目的に、慎重に戦略を練ってキング牧師や学生たちは非暴力直接行動を進めたのです。
サンダース氏の政治意識は、公民権運動の伝統の中で培われています。1963年のキング牧師の有名な演説「私には夢がある」で知られるワシントン大行進に参加し、公民権運動の最初の座り込みをシカゴで行ったのは、おそらく彼です。