彼は、「DNA提供なんて人権侵害だから嫌だ」と拒否しました。規律が厳しい軍隊ですので、軍法会議にかけられました。私も手紙などを書いて彼を支援しました。そして、運よく彼は「名誉除隊」という判決を受けました。
名誉除隊は正当に軍隊を脱隊できますが、不名誉除隊となれば犯罪歴として扱われ就職する際も大きなハンディキャップを抱えてしまいます。その意味でも、彼は良い具合に軍から自由になれたといえます。
私は大学を卒業した後、オハイオ州のトレドという町に移り住みました。脱産業化された貧しい労働者地域です。その近辺で大学の非常勤講師を10年続け、その間に複数の学生から同じような悩みを打ち明けられました。
その悩みとは、「自分は奨学金で借金をしたくない」「借金返済で生涯束縛されたくないから軍隊に入ろうと思っている」というものです。
相談してきたひとりは、返済不要の奨学金を得て大学院に進学できました。しかし、私の友人の弟は大卒でしたが、軍と契約を結ぶ会社に会計士として入社し、アフガニスタンに派遣されました。非戦闘員であるにもかかわらず、爆撃などの戦争体験をしたため、トラウマが残り、今でも飛行機の音を耳にするとパニックになり「ワァーっ!」と叫んだりします。こういう例は珍しくありません。
アメリカ民主党大統領の候補者だったバーニー・サンダース氏は、こういった軍人たちや帰還兵を支援する政策を長い間実行してきました。彼は、ボブ・ディランと同じ1941年に、ヘンリー・ミラーと同じニューヨークで生まれたバーモント州の上院議員です。
バーニー・サンダースと黒人運動
兵士や帰還兵のケアをサンダースがやってきた原点のひとつは、1960年代の学生運動です。最近の選挙集会で驚いたのは、彼がスピーチを行っていたときに「Black Lives Matter(黒人の命が大切)」という運動団体の人たちがサンダース氏からマイクを取り上げ、勝手に演説をしたことです。この団体は民主党、共和党問わず、ほかの候補の政治集会でも同様なことをやっていました。
かつて日本でも、アナーキストの大杉栄たちが、他人が主催している演説会に押し掛けて勝手に自分たちの主張や運動を演説することがよくありました。「演説会もらい」と呼ばれた戦術です。Black Lives Matterも同じようなことを行い、サンダース氏はマイクを彼らに手渡し、あるときは20分間もしゃべらせたりしています。
このBlack Lives Matterは、2014年8月にミズーリ州ファーガソンで18歳の黒人青年マイケル・ブラウンが白人警察官に射殺された事件をきっかけに活発に運動し始めた団体です。アフリカ系アメリカ人の命を奪い続ける警察暴力に抗議しています。