早稲田大学はAO・推薦型入試の募集枠を増やし、6割まで引き上げる目標を掲げた。現在は一般入試による入学者が6割。これが逆転することになる。
古くから行われている一般入試は、用意された問題に対して与えられた時間内に筆記やマーク式で回答するもの。いわゆるペーパーテストだ。AO入試は、アドミッションズ・オフィス入試の略で、高校での活動や面接、小論文によって、受験生を総合的に評価する。推薦入試は高校からの推薦状によって受験資格が生じる。
AO入試は1990年に、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスで始まったといわれている。かつては一芸入試ともいわれ、この入試方式によって芸能人が入学する例もあり、学力を伴わなくていい入試という偏見が今でもある。現在のAO入試はどのようなものなのか。大学通信社常務取締役の安田賢治氏から聞いた。
「AO入試は、いまや京大でもやっています。ただし出願資格はかなり厳しくて、国際物理オリンピックや国際化学オリンピックでメダルを獲っていたりとか、学部によってはTOEFL iBT 100点以上が必要とされます。私立の難関大学のAO入試もそれに準じて厳しくて、英語の資格を持っていたり、留学経験があるというのが有利になります。高校での成績も問われます。
今でも一芸入試的なことをやっている大学も少数ありますが、難関大学ではありません。早稲田の政治経済学部は来年の指定校推薦入試から、共通テストを受けることを出願資格に入れています。点数は合否に関係ないとのことですが、受験生としてはできるだけ高い点を取ろうと勉強しますよね。必要とされる条件が揃わなければ出願できないので、難関大学のAO入試は一般入試より難しいというのが現実です」
優秀な若者を集めて大学の価値を上げるのが、AO・推薦型入試の増大の目的なのだろうか。
「もちろんそれもあるでしょうが、早稲田大学の真の狙いとしては第一志望の子に来てほしいということがあると思います。AOや推薦で志願してくるのは、必ず早稲田に行く子たちです。だけど一般入試はそうとは限らない。東大の滑り止めで早慶を受けるというのは、よくある併願のパターンです。そういう子たちは、東大に受かったらそっちに行ってしまう。
それに似たケースとして、滑り止めだった早稲田に入っておいて、翌年の受験で本命を目指す、仮面浪人が相当数いるんだろうと思います。そういう子たちは、本命に受かったらそっちに行ってしまう。文部科学省は2016年から私立大学の定員厳格化というのを進めてきました。定員に対する入学者を16年度は1.17倍、17年度は1.14倍、18年度は1.10倍までしか認めないと進んできました。19年度には1.0倍にすると言っていたわけですけど、それは据え置かれて、1.1倍のままになっています。
だけども2年次に上がる時に仮面浪人が本命に行ってしまうと、定員割れになってしまうわけです。他の大学も同じような懸念を抱いているので、AOや推薦を増やしていく傾向は広がっていくでしょう」
入学志望者を多面的に評価
今後の社会ではAI(人工知能)の発達で、知識を活用するだけの多くの仕事が、なくなっていくだろうといわれている。社会の変化を意識した面はあるのだろうか。
「それは国の政策でもあります。今回の大学入試改革で学力の3要素について、<知識・技能><思考力・判断力・表現力><主体的に多様な人々と協働して学ぶ態度>を挙げています。多面的な評価が必要になってきますが、一般入試の受験者はとにかく数が多いので、高校時代にどんな活動していたのかというところまで、チェックしきれません。AO、推薦だと手間はかかりますが、面接や小論文、グループディスカッションなどもあって、総合的な判断ができるわけです」
AO入試の増大によって、個性ある学生が多く生み出されることを願いたい。
(文=深笛義也/ライター)