新宿からお台場に行こうとすると、新宿駅から都営大江戸線とゆりかもめを乗り継いで、お台場海浜公園駅まで40分。新宿もお台場も東京23区内だ。23区内でも、地下鉄を乗り継いでの移動で、40分以上かかることはざらにある。
だが新宿駅から神奈川県の保土ケ谷駅まで、新宿湘南ラインで40分で行ける。新宿駅から、埼玉県の東大宮駅までも、新宿湘南ラインで40分で行ける。新宿駅から、東京都八王子市の西八王子駅までは、中央線の特急で40分で行ける。保土ケ谷駅は横浜駅よりもさらに南、東大宮駅は大宮駅よりさらに北、西八王子駅は八王子駅よりさらに西だ。
40分でかなり遠くまで行けるのだが、これはすべて新宿から西の地域だ。東に向かうと、40分で行けるのは、新宿駅から中央線と総武線を乗り継いで、下総中山駅。江戸川区から、わずかに千葉県に入った場所である。新宿駅から山手線と常磐線特別快速を乗り継いで、松戸駅までも40分。千葉県であるが、葛飾区に接している。
なぜ同じ時間で、新宿から西へは遠くに行け、東へは近くにしか行けないのか? 鉄道ジャーナリストの梅原淳氏から聞いた。
「東京の鉄道は、山手線の駅がターミナルになって、そこから放射状に広がって路線ができあがっています。新宿は山手線の西側なので、JRをはじめとして、小田急、京王、西武新宿線という西に延びる路線のためのターミナルとして発展しているんです。山手線の東側の東京駅や上野駅などは、東側への路線が発着するターミナルとして発展しています。
これはなぜかといえば、もともと東京の山手線内の往き来がしずらかった歴史があります。戦前は行政による規制によって、山手線内に私鉄を走らせられなかったんですね。その代わり、今は荒川線しか残っていませんが、そこら中に都電が走っていました。新宿と東京を結んでいる中央線は、規制のなかった明治時代に、甲武鉄道という民間会社が敷きました。この区間には赤坂離宮や当時の陸軍施設があったために、それを避けるために、とてもカーブの多い線路になっています。そのためにスピードが出せないんです。新宿駅から東京駅まで、中央線の快速電車で約14分。距離は10.3キロなので、平均時速約44キロで走っていることになります。新宿から東京へは地下鉄丸の内線もありますけど、迂回しているし停まる駅も多いので、もっと時間がかかります。
新宿駅から立川駅は、中央特快で約26分。距離は27.2キロなので、平均時速は約62キロなんですね。ちなみに新宿駅から上野駅に行く場合、神田で山手線に乗り換えるということもあり、24分かかるんですね。平均速度は約28キロとなります。そういうわけで、山手線の中を通って東側に出るのには時間がかかるということになります」
こうした現象は、大阪でもあるのだろうか。
「大阪駅からですと、神戸の三ノ宮方面、宝塚方面が強くて、難波や天王寺からは岸和田方面や和歌山の高野山に向かう南海電車が強いというかたちで、北と南でターミナルが分かれているのは同じです。ただ北と南を、地下鉄御堂筋線が一直線に結んでいるので、その間の往き来はしやすいです」
鉄道と街の発展、その密接な関係
新宿から近郊都市への時間は、昔から比べるとずいぶん早くなったと感じる。
「JRは今までもあった線路を活用して、湘南新宿ラインをつくって、早さを実現しました。そうすると新宿-小田原で競合するようになって、小田急が早さを追求しました。湘南新宿ラインでは、渋谷-横浜も早くなったので、競合する東急東横線が急行の上に特急をつくって早さを実現しました。JRも含めて、都心の複々線化が進んできたので、速い列車を走らせることができるようになったんです」
早さの実現は、基本的には近郊都市の住民を都心に運ぶためだろうが、逆転現象も起きているのではないだろうか。筆者は新宿近くに住んでいるが、しばしばIKEAで買い物をするために立川に行き、早さの恩恵を受けている。集客力に自信のあるIKEAは他の店舗も、都心ではなく近郊都市にある。買い物の後に食事をすると、都心よりも土地代が安いためだろう、リーズナブルな店が多い。都心にはないような個性的な店もある。
「立川はもともと大きな街でしたけど、特快ができたことでより発展しました。もっと新宿に近い小金井市は、東小金井駅も、武蔵小金井駅も特快が停まらないということで不利になっています。横浜方面で見ると、武蔵小杉は東横線と南武線がクロスしていた駅でしたけど、湘南新宿ラインが停まるようになって、さらに発展しています」
鉄道と街の発展は、切っても切り離せないものである。
(文=深笛義也/ライター)