中華人民共和国の建国を指導した毛沢東の遺体が安置されている毛主席紀念堂が、北京中心部の天安門広場から毛沢東の生誕の地である湖南省韶山市に移転することがわかった。今年6月、中国共産党の最高決定機関である党中央政治局会議で討議、決定された。「党は今後、個人崇拝を廃す」と主張する習近平国家主席の強い意向が働いているが、逆に習主席への権力一極集中を招く可能性が強い。北京の外交筋が明らかにした。
毛主席紀念堂は毛沢東死去1周年の1977年9月に落成されて以来、中国各地からの観光客らのために、防腐処理された遺体を観覧できるようになっている。しかし、80年代以降、改革・開放路線が進展してきたことで、毛沢東の評価も変化しつつあり、個人崇拝を嫌う傾向も高まっていることから、いくども毛主席紀念堂の移転や廃止が提起されてきた。
同筋によると、今年3月の全国人民代表大会(全人代=日本の国会に相当)でも、20人以上の委員が紀念堂の移転を提案する署名を提出。これを受けて、習主席の腹心中の腹心といわれる党中央政治局常務委員の王岐山・党中央規律検査委員会書記が発起人となって、党政治局会議に紀念堂の移転を発議。政治局員25人中、23人が賛成、2人が棄権、反対ゼロで可決された。
習主席は会議後、移転の時期について、「すでに決定されたからには、速やかに実行したい」などと述べて、具体的には来年秋の党大会で2期目の党総書記に選出されたあと、その後の5年間の任期内に実行すると約束。早ければ、2018年にも着手する見通しだ。
党内の権力闘争が激化
毛沢東については、中国内でも教条主義的で保守的な傾向が強い左派から根強い支持を受けている。ときには、その思想的に偏狭な考え方は、中国が経済や軍事的に米国を追い抜いて世界一の大国になるという習主席の「中国の夢の実現」と逆行する場合もあり、習主席は紀念堂の移転により、「非毛沢東化」を推進しようとしているようだ。
「習主席は思想的に毛沢東信奉者とみられているが、それは権力を掌握するためのプロセスであり、非毛沢東化を進めることで、自らに権力を集中させて、第2の毛沢東になろうと考えているのではないか。このため、来年の党大会を目指して、党内の権力闘争が激しくなっている」(前出・外交筋)