輸入利権を貪る農畜産業振興機構
また、民間企業が自由に輸入できない構造にも問題がある。
生乳は、まず新鮮さが求められる牛乳や生クリームの供給量が確保され、余った分が保存のきくバターや脱脂粉乳に加工される。多く余ればバター等として保存され、供給が足りないときは在庫から流通に乗せる。つまり、生乳の流通量を調整する役割を担っている。だが、生産量の不足が慢性化しつつある昨今、バターの輸入拡大は避けて通れなくなっている。
それにもかかわらず、政府は酪農家保護を名目にバターに高い関税をかけ、民間業者が容易に輸入できないようにしている。緊急輸入を行う際、実際に業務を担うのは独立行政法人の農畜産業振興機構(alic)だ。alicは、輸入バターを販売業者に卸す業務を独占している。
alicがバターを民間業者に売り渡す方式は2通りある。ひとつは「一般方式」で、alicが輸入して在庫とする。それを入札によって、業者が落札する方式だ。そしてもうひとつは「SBS方式」と呼ばれる特殊な方式だ。これは、輸入業者がいったん輸入したものをalicに売り渡し、同時に業者が買い戻すのだ。これも入札を行うが、alicへの売り渡し額と買い戻し額が大きい業者が落札となる。
たとえば、バターを輸入した業者は1億円でいったんalicに売却し、同時に1億8000万円で買い戻す。実際には物資の移動は伴わず、書類を交わして差額の8000万円を業者がalicに納めるのだ。このような輸入時の差額をマークアップと呼ぶが、alicが発表しているところでは、14年度のマークアップは1キログラム平均648円だった。同年の売り渡し数量は1万2931トンだから、単純計算で83億円あまりの利益が生じている。マークアップは毎年バラつきがあるが、過去5年では1キログラム平均77~649円の間で推移している。
国際的に流通しているバターの一般的な価格は、日本国内の製品に比べて3分の1ほどといわれているが、販売価格は関税と輸入差益によって国内品の2~3倍程度まで跳ね上がっているケースが多い。昨年、緊急輸入した際、alicは輸入差益によって40億円の利益を得たと報道されている。昨年の総輸入量は2万トン、今年も1万7000トン輸入する。
国内で流通するバターの9割は北海道産だ。だが、大型台風の直撃によって大きな被害が出ただけでなく、牛が体調不良やストレスによって乳をつくれなくなっており、北海道内の生乳生産量が激減した。それが今年2度目の緊急輸入を決定させた。つまり、バター生産の北海道一極集中がもたらした弊害といえる。
事実上国内の流通を独占する指定法人制度を廃止し、輸入を独占するalicを解体すれば、バターは自由競争原理が働き、不足は根本的に解決するはずだ。酪農保護を掲げ流通量を国が制限してきたが、絶対量が不足する今となっては、自由化しなければ国民にとって不利益な制度でしかない。
(文=平沼健/ジャーナリスト)