ついに長江流域のみならず、黄河流域でも水害の危険が迫っているようだ。中国のニュースサイト人民網日本語版が21日、記事『黄河で2020年第2号洪水が発生』で伝えた。同記事は「降雨の影響を受け、甘粛省蘭州地域より上流の黄河の水量は増加の一途をたどっている。20日午後8時42分時点における黄河蘭州水文ステーションの水量は毎秒3千立方メートルに達し、黄河で2020年第2号洪水が発生した」と報じ、「予報によると、今後も増水は続くとみられており、龍羊峡ダムや劉家峡ダムではいずれもすでに氾濫警戒水位に近づいている」としている。
黄河のダムは少数民族の自治州に立地、氾濫で政情不安も
中国中部・湖北省宜昌の長江流域にある巨大水力発電ダム「三峡ダム」では19日、増水による決壊を防ぐために放流が実施された。豪雨の影響で長江の中部と東部の各地で水位は上昇を続け、死者・行方不明者は140人以上、被災者は約2400万人に上っている。さらに、ここで黄河流域でも大規模氾濫が起これば、中国経済への打撃にとどまらず多くの家を失った住民の政府への反感が高まり、政情にも影響を与える可能性がある。
蘭州は古くから中国の「西域の玄関口」として栄えてきた都市だ。多くのイスラム教徒を抱える回族(フェイ族)の自治州に隣接し、少数民族が多く居住する。記事中の龍羊峡ダムは海南チベット族自治州に、劉家峡ダムは甘粛省に立地する。回族は中国共産党に信仰が認められたイスラム教「サラフィーヤ派」などの穏健な宗派を中心に構成されている。外務省外郭団体関係者は次のように話す。
「劉家峡ダムは、1960年代から70年代初頭、文化大革命の時代に建造されたダムです。その建設や運転開始に向けて、文革によって追放された多くの人々が携わった施設です。
また中国政府は回族やチベット族の多い周辺の甘粛・寧夏・内蒙古地区などへ水を供給することで、現地住民の定住化、農民化を図り、生活向上を図る政策をとってきました。
とはいえ、いまだに漢民族とのわだかまりがなくなったわけではありません。ちなみにこのダムの主な用途は治水ダムであり、その最大の目的は『古くから漢民族の西域の戦略拠点であった蘭州を黄河の氾濫から守ること』だとされています。つまりダムが決壊したり、緊急避難的に放流をしたりして、周辺に被害が及べば、共産党政府への批判が強まる可能性もあると思います」
なぜか中国本土の水害ニュースが低調な日本
東京都新宿区の台湾観光コンサルタントの女性は、一連の中国本土の水害に関する日本国内の報道の低調さにも疑問を呈する。
「中国の実情に関するニュースの多くが、日本のマスコミで報じられるまでに最低1日から2日程度のタイムラグが起こっていますよね。英BBCやAFP通信などは速報するのですが……。日本の報道機関の皆さんとは、私も何度かお仕事させていただきましたが、中国国内にたくさんの報道拠点を持っていますよね。少し疑問です」
中国本土の動向は、日本に直結する。注視する必要がある。
(文=編集部)