大手広告会社・電通で昨年12月、新入社員の高橋まつりさんが過労自殺をし、今年9月に長時間労働が原因として労災認定され、大きな話題を呼んだ。
そんななか、安倍晋三首相は長時間労働をなくすことなどを目的とした「働き方改革」を掲げ、2017年3月にも指針や方策を示す予定だ。
12月6日付当サイト記事『電通、何度も何人も社員が過労死しても変わらず…経営陣&社員の怖すぎる「鈍感力」』に続き、「全国過労死を考える家族の会」元代表の馬淵郁子氏に、過労死遺族の声を聞いた。
馬淵氏は1988年、夫を過労死で亡くし、遺族として中央労働基準監督署で労災認定を勝ち取った。91年に「全国過労死を考える家族の会」を結成し、代表として10年にわたり過労死・過労自殺撲滅の活動に取り組んできた。
残業時間に法的拘束力のある規制を
――電通の過労死事件をきっかけに、政府・与党から「残業時間に(法的拘束力のある)上限を設けるべき」という声が上がっています。経済界と関係が深い安倍政権としては意外に思えますが、馬淵さんはどのように感じますか。
馬淵郁子氏(以下、馬淵) 経済界は、残業時間に上限を法律として設けることに大きな抵抗感はないと思います。むしろ、上限を設けたほうがいいと考えている経営者もいるでしょう。
たとえば、月の残業に60時間の残業を設けた場合、100時間働いたとしても60時間分の残業代しか払わず、40時間分はサービス残業としている企業は多くあります。労働時間の記録が残されないようにするため、社員が過労死しても「過労死認定」されないのです。
上限を設けることで、上限までの残業代しか払わなくていいという根拠を得たように考える経営者がいるわけです。
現政権は、「残業代ゼロ法案」「過労死促進法案」と揶揄されている労働基準法の改正案を今国会で通そうとしています。過労死や過労自殺がこれほど多く取り沙汰されても、その姿勢を変えようとしていません。
一方で、安倍晋三首相や塩崎恭久厚生労働大臣、榊原定征日本経済団体連合会会長などは、電通の過労自殺を受けて「(悲劇を)繰り返してはならない」と発言しています。私には、猛烈に矛盾しているように思えるのです。その矛盾の意味するものを、国民はもっと知らないといけません。