軍事的な緊張が高まっている。日本でも11日になって少しずつ報道がされてきているが、中国人民解放軍の作戦機が9~10日、台湾の防空識別圏(ADIZ)に進入したのだ。台湾外交部(日本の外務省に相当)が強く反発している。9日には、実質的に台湾が支配している南シナ海上の「東沙諸島」が“人民解放軍に包囲された”との憶測も流れ、台湾国防部に在台メディアは追われた。軍靴の音が近づきつつある中、台湾の若者たちは「再び徴兵制が敷かれるかもしれない」と不安を募らせている。
AFP通信は11日、台北発の外信記事『中国軍機が防空圏進入 台湾、「深刻な挑発」を批判』を公開した。記事は次のように伝える。
「台湾当局によると、9・10日の中国の大規模軍事演習で、スホイ30(Su30)、J10戦闘機、Y-8対潜哨戒機など複数の中国軍機がADIZに進入した。台湾外交部は声明で、『中国政府による軍事演習は台湾への深刻な挑発行為であり、地域の平和と安定に重大な脅威をもたらす』と批判。『中国人民解放軍(PLA)はきょう、台湾の近くでの演習実施を選んだ。あすは他国の近くで、同様の威嚇行為を行う可能性がある』と述べた。
同外交部は中国が域内に『極度の不安定化の要因を導入』しているとも非難。中国の『攻撃性の増大』に十分注意を払うよう国際社会に要請し、『台湾は対立を望まないが、逃げることもない』と言明した」
実は一連の解放軍機の進入と合わせて、台湾内では9日、センセーショナルなニュースが流れ、極度の緊張状態に陥っていた。蘋果日報(apple daily)台湾版が9日、『解放軍南海軍演傳兩棲部隊包圍東沙島 國防部澄清假消息』と題する記事を公開し、消息筋の話として、人民解放軍の水陸両用部隊が南シナ海で演習を行い、「東沙島」が包囲された可能性があると報じたためだ。
台湾海軍艦隊司令部と空軍作戦司令部も警戒態勢に入っていたこともあって、インターネット上を中心に「ついに開戦か?」との憶測が広がった。フォーカス台湾(中央通訊社)などの報道によると、台湾軍は同日夜、「人民解放軍による東沙島の包囲」に関する噂を否定。司令部の警戒態勢も通常のもので、今月実施予定の演習に備えたものだったと説明した。
台湾の若者「徴兵制が再び復活するのでは」
急激に高まる中台間の軍事的な緊張に、日本国内の大学に留学中の台湾人男性(24)は語る。
「友人の間で、やっと徴兵制度がなくなったのに、楽しかった時間も終わりかもしれないという噂が流れています。非常に憂鬱です。
このまま日本で勉強を続けたいです。でも香港国家安全維持法の顛末を知っているから、みんなが同じような目に遭うのなら、銃を取るのも仕方がないのかなとも思います。万が一にも全面戦争ということになれば、人民解放軍は圧倒的な規模ですし、ほぼすべての台湾の若者が戦場に駆り出されることになるでしょう。正直、死ぬのは怖いし、人を殺すのも嫌です」
台湾では2018年12月、徴兵制から志願制への全面移行が終了した。1951年以来続けてきた徴兵制を廃止していた。志願制への方針は12年に決まり、15年ごろまでに徴兵制を廃止する予定だったが、少子化などで十分な兵員数を確保できずに延期されていた。
かつての徴兵制の対象は18歳以上の男性で、廃止直前の兵役義務期間は1年だった。一方で、4カ月間の軍事訓練の義務は残っている。いずれにせよ、青春の真っただ中の丸1年間を兵営で過ごさなくてはいけないことは、個人の人生にとっても、労働力や経済力、研究開発力の観点からも影響は小さくない。
緊張はどこまで高まるのか。日本も他人ごとでは済まされない事態に近づきつつあるのかもしれない。
(文=編集部)