江川紹子が見る「清水富美加・出家騒動」――メディアは芸能界の労働事情とは切り離した報道を
女優・清水富美加さんの幸福の科学への「出家」騒動。本人の“告白本”の出版が、あまりに手回しがよいということで、一連の騒ぎは、すべて教団が用意周到に計画したのではないか、と言う声をそこここで聞く。
果たしてそうだろうか。
用意周到とは程遠い“告白本”出版までの言動
私には、むしろ場当たり的な対応に見える。“告白本”は、本人がツイッターで公表した発売日を過ぎても、大手書店に入荷していなかった。用意周到に準備したのであれば、全国の書店に一斉に並ぶような状況を作っただろう。
記者会見を開けば厳しい質問にさらされたり、矛盾を指摘されたりすることも考えられるので、一方的に主張を発信できる本を慌てて作ったのではないか。幸福の科学・総裁の大川隆法氏の本を次から次に出している教団としては、緊急出版はお手の物だ。
先月出版された、大川氏が清水さんの「守護霊」に語らせた本では、「事務所との葛藤」をにおわせながらも、「ちゃんと売れる女優になって独り立ち」する、とある。「三十代ぐらい」には、世の中に影響力を与えられる「女優としてのステータス」「発言力」を持てるようにとも書かれている。
一方で、この本では、清水さんが衆生を救済する千手観音の役割であると称賛されている。今年はその使命に目覚める年だと強調し、大川氏は「闇夜を貫く光となる覚悟」を清水さんに求めている。
こうした記述からすると、少なくとも当面は芸能界で活動させ、ただし幸福の科学の信者であることを明かして広告塔としの役割を果たさせる、というのが、当初の目論見だったのではないか。信者であることをカミングアウトして、広告塔になるための「覚悟」を求めたのが、この本だったように思える。
創価学会の場合は、信者であることを公言し、機関紙にも登場している芸能人が何人もいる。そのような形で清水さんを活用することは、幸福の科学にとって大きなメリットがあると考えてもおかしくない。
ところが、教祖から「覚悟を決めよ」と言われた清水さんが、強く使命感をかき立てられ、それまでに悩んでいたことや所属事務所への不満が一気に噴き出したこともあり、教団としても彼女を丸抱えする方向に舵を切ったのではないか。
二世信者の問題と教団のカルト性
清水さんは、両親が信者の二世信者。幼い頃から、大川氏を絶対的な存在とし、教団の教えこそが善であるとする教団の教えの中で育った。心の隅々まで教団の価値観が浸透していることは想像に難くない。
人生の途中で特定の教義に感化され、のめり込んだ人の場合は、何かのきっかけで疑問を持ったり、何らかの理由で距離を置く時間ができたり、恋愛など強い心理的インパクトを受ける体験をした時に、「入信前の自分」に戻ることが不可能ではない。しかし、二世信者の場合、戻るべき「入信前の自分」がない、という問題がある。悩みがあっても、一人きりで教義の土俵の外で考える、ということは、著しく困難だろう。
しかも、清水さんは幸福の科学の信者であることを隠していたようで、マネジャーさえも、今回の出来事が起きるまで知らなかった、という。そうなると、教団の価値観や自分の気持ちと、女優としての仕事や人間関係との間で生まれた葛藤を相談する相手は、教団関係者しかなくなる。
社会の中に心を開ける人がなく、あるいは教団について他者に話すのを禁じられたために、教団関係者だけに悩みを相談しているうちに、自分を本当に理解してくれるのは、教団内の人だけだという思いが心を占めてしまうことは、他の新興宗教の例を見ていても、よくある。