先頃、六代目山口組執行部から、その直系組織に「山口組新報」の最新号が配布された。同紙は、六代目山口組の機関紙的な役割を果たしており、普段、自身の言葉などを公に発することのない親分衆らの考えや組織の方針などを知る上で、同組関係者にとっては貴重な情報媒体といえるだろう。
今号の巻頭を飾ったのは、六代目山口組若頭補佐である十一代目平井一家の薄葉政嘉総裁。やはりといおうか、薄葉総裁はコロナ問題について言及しつつ、組織の活動にさまざまな制限が課せられている特定抗争指定の中にあっても、立ち止まることなく前へと進んでいく主旨のことを述べている。
2ページ目には、「三代目田岡一雄親分 四十回忌法要」と題して、六代目山口組幹部で事務局長を務める二代目若林組・篠原重則組長が寄稿。お盆の墓参については、慶弔委員の二代目大原組・金田芳次組長が思いを綴っている。
そして3ページ目をめくれば、今年2月16日に執り行われた六代目山口組若頭補佐である二代目竹中組・安東美樹組長と、広島の独立組織、六代目共政会・荒瀬進会長の五分義兄弟血縁盃の写真が掲載されており、長期服役中に鍛えられた高い文章力があることで知られる安東組長が筆をふるっている。同ページの中段には、行事報告が記され、7月8日に他界した元六代目山口組舎弟・堀内伊佐美元組長の訃報が記されてあった。
ここまで読んでも、前号の「山口組新報」が出された今年4月から9月までの間に六代目山口組で何が起きていたのかの一端を知ることができるのではないだろうか。
さらに4ページに入ると、二代目源清田会・平松大睦会長が、組織の系譜について自身の経歴を交えながら書いている。そして文中後半には「一部の不心得者」として、暗に神戸山口組サイドを批判するような記載があり、分裂問題を解決させて、1日でも早く特定抗争指定解除に向かわなければならない旨が綴られていた。
5ページの上段には、北海道に本拠地を置く四代目誠友会若頭が、北海道を襲ったコロナ問題について寄稿しており、そのあとには「震災と山口組」と題して、三代目岸本組・野元信孝組長が寄稿。次ページには、編集部からの記事と総本部付の組員による記事が掲載されていた。いずれも、災難に見舞われた社会を憂う内容になっていた。
そして、7ページには、恒例の各組員から投稿された、俳句、川柳、短歌・狂歌が詠まれていた。やはり時節的にも、コロナ問題について詠まれている詩が見受けられて、ユニークな作品も入選し、掲載されている。いくつか紹介させていただこう。
ウチの妻 コロナと言いつつ キスしない
AIも 太刀打ちできぬ 妻の勘
安倍総理 リスクとマスク 取り違え
そして最終の8ページには、六代目山口組本部長を務める大同会・森尾卯太郎会長が「鳥取〜我が故郷」と題して、地元である鳥取県を情緒ある文章で紹介している。
今回の「山口組新報」も現在の六代目山口組の活動や、そこに属する人々の考えや生活を知る上での稀有な資料となっている。そして、この新報に目を通せば、誰しもが感じることがあるのではないだろうか。
それは、反社会的勢力とされるヤクザの素顔やヤクザ組織の内側をこうした紙面を通して見た時、そこに詰まった人間味あふれる言葉や公(おおやけ)や先人を思う気持ちなどは、一般人のそれと変わらないというもの。そして、現代社会に植え付けられたヤクザ=絶対悪という見方に対する疑問だ。
そもそも当局は、法によって、ヤクザを厳罰化し、活動を制限してきたが、ヤクザ組織を結社することを禁じようとはしてこなかった。それは「山口組新報」の中でもときより触れられるように、ヤクザという仁義を重んじる人たちが社会に必要とされてきた側面があることを歴史が物語っているからではないだろうか。