未明に運び込まれたミサイル防衛システム
平和な農村風景が広がる韓国中南部の地方都市・星州(ソンジュ)郡。ここで4月26日未明、キナ臭い衝突が起こった。大量の装備品を積んだ米軍トラックの車列を、約500人の地元住民らが乗用車のバリケードで阻もうとしたのだ。
装備品の行き先は「ロッテスカイヒル星州カントリークラブ」の跡地。米軍のTHAAD(サード高高度ミサイル防衛システム)配備予定地だ。ほどなく警官隊が住民らを排除し、米軍トラックは無事に装備品を搬入。こうして2013年以来の懸案だったTHAADの韓国配備が、だしぬけに急ピッチで動き出した。
THAADの韓国配備をめぐって火花を散らす米中
北朝鮮の核兵器・ミサイル開発をめぐり、米中が火花を散らす朝鮮半島情勢。そんななかで「とばっちり」ともいえる難題を両大国から突きつけられているのが、韓国だ。
中国はTHAAD受け入れに対する報復措置として、韓国製品の不買や芸能人締め出しで応酬。一方、トランプ米大統領はTHAAD配備費用として韓国に10億ドル(約1100億円)の支払いを要求する始末だ。
THAADは、敵の弾道ミサイルを高々度で迎撃するミサイルシステム。アメリカは韓国への配備を北のミサイル開発への対抗措置と説明するが、中国は強硬に反発している。自軍の核抑止力を無力化される懸念に加え、レーダーが中国国内の監視に利用され得るからだ。
ついに既成事実化したTHAAD配備
韓国国内でも反対世論は根強い。韓国の公営放送KBSが今年3月に行った世論調査では、THAAD配備に対して賛成51.8%、反対34.7%。「防衛の効果がない」「周辺情勢を不安定化させる」「アメリカ追従」などが反対理由だ。
韓国の朴槿恵(パク・クネ)政権が反対世論を押し切ってTHAAD配備に合意したのは、16年7月。だが、18年2月まで任期を務めるはずだった朴前大統領は、同年12月に「崔順実(チェ・スンシル)ゲート」で権限停止に。政界ではTHAAD反対を掲げる次期大統領候補が乱立し、配備の行方は一気に不透明化する。
韓国メディアではそれまで「THAAD配備は今年5月以降」との見方が有力だった。そこへ米軍と韓国国防部が隙を突くように、4月26日から配備を強行したかたちだ。
韓国国防部は、北の核やミサイルの脅威が増したためと説明。だが韓国メディアは、5月9日の大統領選との関連を指摘する。政権交代で計画が修正される前に、駆け込みで配備を既成事実化したというわけだ。