THAADの報復で総額200億ドルが消失?
中国人の反韓感情も、韓国企業の脅威だ。今年3月2日には中国陸軍の羅援少将が、現地紙『環球時報』で「THAAD反撃十策」と題したコラムを発表。星州への先制攻撃、ミサイル攻撃力の強化といった軍事的対応策に加え、韓国企業に対する「懲罰的な報復措置」を国民に呼びかけた。
韓国製品の不買運動はすでに深刻だ。韓国自動車メーカーの現代・起亜自動車は、今年3月の中国での販売実績が前年同期比52.2%減に落ち込んだ。今年からの減税幅縮小で中国の自動車市場が縮小したところへ、THAADによる反韓感情が直撃したかたちだ。
現地では競合メーカーのディーラーが、反韓感情を煽るキャンペーンまで繰り広げている。「韓国車を下取りすれば割引」「韓国車の注文をキャンセルすれば記念品プレゼント」といった具合だ。韓国車の販売減にともない、現地進出した韓国の部品メーカーも業績が悪化。こうした中国の報復措置による韓国の経済損失は、総額200億ドル(約2兆2000億円)とも見積もられている。
THAAD用地提供の代償に猛攻撃を浴びるロッテ
なかでも名指しで集中砲火を浴びているのが、THAAD配備用地としてゴルフ場を提供したロッテグループだ。ロッテグループの量販チェーン「ロッテマート」は、中国で展開する全99店舗のうち87カ所が休業状態。今年2~3月に中国当局の消防点検で些細な違反を指摘され、営業停止処分を受けたせいだ。
また中国へ輸出する製品も狙い撃ちにされ、ロッテ製のキャンディが通関で差し止められた例も。韓国国内のロッテ免税店も売上の7~8割を中国人観光客に頼っていたため、「韓国旅行禁止令」がもろに直撃している。
ロッテグループの試算では、THAAD用地提供の契約を結んだ今年2月末から上半期の損失は1兆ウォン(約980億円)に及ぶ。だが韓国政府に救済を求めようにも、朴前大統領の罷免で政権は空白状態。そこへ今回の配備強行で、完全に退路を断たれた格好だ。
究極の選択を迫られる韓国新政権
中国の報復措置に対して、韓国国民の間でも反中感情が高まっている。そうかと思えばトランプ大統領の「10億ドル要求」発言で、今度は一部に根強い反米感情も噴出する始末だ。
だが仮にTHAAD配備前なら計画修正があり得ても、すでに米軍が設置した装備を韓国が撤去する代償ははかりしれない。韓国がTHAAD問題で取りうる選択肢は一気に狭まり、ハードルははるかに高まった。朴槿恵政権が追求したバランス外交の結末は、新政権に恐ろしく困難な選択を迫っている。
(文=高月靖/ジャーナリスト)