トランプ米政権の誕生は、世界の温暖化対策にも影響を与えそうだ。トランプ大統領は3月28日、オバマ政権時代の温暖化対策を撤廃する大統領令にサインした。米国は2015年12月のCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で締結されたパリ協定を批准しているが、この大統領令によって、オバマ政権が進めてきた温室効果ガス排出削減策は大幅に後退することになる。COP21に先だって、米国は25年の温室効果ガスの排出を05年比で26~28%削減するという目標を提出していた。トランプ大統領は現在のところパリ協定から離脱する決定は下していないが、米国が表明していた約束は反故になる見通しである。
トランプ氏は大統領選挙中から、地球温暖化に対して「懐疑派」の立場を明確にしていた。地球温暖化が「でっち上げ」であるという考え方で、共和党の政治家にはこうした立場をとる人が多い。トランプ氏がEPA(環境保護局)長官に指名したスコット・プルイット氏も、地球温暖化に懐疑的立場をとっている。彼の場合、地球が温暖化していることは認めるが、その原因は温室効果ガスの人為的排出ではないという立場である。
地球温暖化に対するこうした懐疑的立場は、温暖化現象が一般に認識され始めた頃から存在している。最初の頃の主な主張は「世界平均気温の上昇は自然変動による」というものであった。海洋にはエルニーニョ南方振動や太平洋10年規模振動などの周期的変動があり、海洋と大気の間で熱がやりとりされている。これが世界平均気温に影響を与え、自然変動を起こしているのは事実である。
しかしながら、観測された世界平均気温に周期的な変動はみられず、気温は上昇する一方であった。地球の気温を上げているのは太陽活動だという説もあったが、太陽活動が静かになっても気温は上昇を続け、この説も否定された。
1998年に世界平均気温は急激に上昇した。この時期に出現した観測史上最大規模のエルニーニョの影響と考えられている。その後、世界平均気温は目立った上昇傾向を示さなくなったため、今度は「気温上昇は終わった」という主張が登場した。
しかし、2014年以降、気温はまた上昇傾向をみせており、長期的なトレンドでみれば、気温は一貫して上昇してきたことがわかる。約10年間、気温上昇が停滞していたのは、エルニーニョやラニーニャ、太平洋10年規模振動などによって、この時期に熱が海洋内部に蓄えられる傾向が強まったためと考えられている。