気候感度
こうした懐疑的主張は、温暖化対策に反対するための理由として使われてきた。最近の反対論でよく用いられるのは「気候感度はこれまで考えられているよりも低い可能性がある」という議論である。「気候感度」とは、地球の気温の上がりやすさを示す指標で、大気中の二酸化炭素濃度が産業革命前のレベルの2倍になったときに、世界平均気温が何度上昇するかで表される。
気候感度の値は、まだ正確にはわかっていない。07年に発表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次評価報告書では、気候感度は2~4.5℃とされ、3℃が最良推計値とされた。13年に発表された第5次評価報告書では1.5~4.5℃となり、最良推計値は示されなかった。IPCCは科学的に厳密なスタンスをとっているわけだが、下限値が下がり、最良推計値が示されなかったため、一部の人たちは「気候感度はこれまで考えられているよりも低い可能性がある」と言い出したのである。
パリ協定は「世界平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃より低く保ち、1.5℃に抑える努力を追求する」ことと、「今世紀後半に人為的な温室効果ガスの排出量と大気や海による吸収量をバランスさせる」ことを目標にしている。これは各国が温室効果ガス排出削減に厳しく取り組まなければ実現できない目標である。気候感度は、これをいかに達成するのかという政策に関係してくる。
現在、多くの温暖化予測では気候感度として3℃、あるいはそれに近い値が用いられている。それをもとに温室効果ガスの排出削減量を決めていくわけだが、気候感度が低いかもしれないと主張する人たちは、世界平均気温は思ったほど上昇せず、「パリ協定の目標を達成するとしても、許容される温室効果ガス排出量はもっと大きいはずだ」と主張している。しかし、気候感度は3℃より低いかもしれないが、高い可能性もある。こうした考えを採用すると、パリ協定で各国が同意した目標を達成できない心配がある。
温暖化は進行していく
以上述べたような議論をしている間にも、温暖化は進行していくことを忘れてはならない。16年は気象観測史上、もっとも暑い年であった。気象庁によると、16年の世界の年平均気温は1981年~2010年の平均気温に比べて0.45℃高く、また20世紀の平均気温に比べて0.81℃高かった。世界の年平均気温は、長期的には100年あたり約0.72℃の割合で上昇しているという。
気候感度の不確実性は今後の研究で解決していくであろう。気候感度が詳しく求められていない原因は、雲とエアロゾル(大気中に浮かぶ微粒子)が気候に与える影響の度合いがよくわかっていないためである。これを知るには地上からの観測だけでは不十分であり、人工衛星による宇宙からの観測が必要と考えられている。JAXA(宇宙航空研究開発機構)が今年度打ち上げを予定している気候変動観測衛星「GCOM-C」は、雲とエアロゾルの観測を主な目的としており、気候感度をより正確に求められるようになると期待されている。
(文=寺門和夫/科学ジャーナリスト、日本宇宙フォーラム主任研究員)