菅義偉首相は所信表明演説で、温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロとする目標を宣言した。脱炭素社会に向けて日本もようやくEU並みのスタートラインに立ったわけだが、問題はどうやって温室効果ガスを減らすかだ。
自民党の世耕弘成参議院幹事長はさっそく、原発の再稼働に加え、新設の検討についても言及した。しかし、原発もまた世界では古い技術であり、欧米で新設を考えている国は皆無だ。脱炭素社会は、再生可能エネルギーを飛躍的に増やすことで実現するのが世界的トレンドである。
国際エネルギー機関(IEA)は10月13日、2020年版の年次レポート「World Energy Outlook 2020」を発表し、ビロル事務局長は「太陽光が世界の電力市場の新たな王様になるとみている」と言っている。
そもそも、原発だけでなく、火力発電(石炭・石油)などの大規模集中型エネルギーシステムが時代遅れだ。2018年、北海道胆振東部地震によって北海道全域がブラックアウトとなり、昨年9月は関東を襲った台風15号により首都圏で最大約93万4900戸が停電した。とくに被害の大きかった千葉県では最大約64万1000戸が停電し、復旧に長期間かかった。そして、今年9月に沖縄・九州を襲った台風10号でも、九州や中国地方で40万戸以上の停電被害が発生している。
大規模発電所でつくられた電気が長い送配電網で各家庭に届けられる古い電力システム、その脆弱性が明らかになったのである。災害からの「早期回復」「早期復元」を意味する「災害レジリエンス」の観点から、分散型の再生可能エネルギーの意義が高まっている。
防災のために再エネを増やし、電気の地産地消を
新聞もテレビもコロナ一色となった6月、「エネルギー供給強靭化法」が国会でひっそりと可決・成立した(2022年4月1日施行)。法案名が「強靭化」となっているとおり、災害への備えの強化・レジリエンスを前面に押し出した内容となっている。
具体的には、(1)地域分散型の配電網が運営できる「配電事業」を法律で位置づける、(2)山間部での配電網の独立運用を可能にする、(3)分散型電源等を束ねて電力供給を行う「アグリゲーター」事業を法律で位置づける、(4)家庭用蓄電池等の分散型電源等をさらに活用する、などが含まれている。大手シンクタンクのコンサルタントはこう話す。
「防災のために自前の電力を確保するという意味では、最後の最後は太陽光システムと蓄電池ということになるが、その前に、自治体を中心とした地域防災のあり方を考えるべきだ。エネルギー供給強靭化法によって、地域の配電網は電力会社でなくても運営できる制度になった。その仕組みを使えば、防災の観点から自治体や地域の会社が電力供給を担っていくようになる」
発電所でつくられた電気は長い送電線に送り出され、変電所を経て、街なかの電線に配電される。最後は電柱の上にある柱上変圧器(トランス)を経て、100Vまたは200Vに変圧されて引込線から各家庭へと送られる。長い送電網は自然災害によって寸断されるリスクがあるだけでなく、送電網は長くなると送電ロスが大きくなり、メンテナンスのコストも大きくなる。
「配電」は大手電力のグループ会社である送配電会社が管理する太い送電線から各家庭までの最後の部分だが、法改正により、電力会社以外でも運営できるようになったわけだ。
「20年以上前、平時においては停電がほとんど起きなくなったが、最近は自然災害による停電という違うフェーズに入ってきたと、電力会社の人も言っている。大手電力だけでは対応できない異常気象や震災が増えつつある。電線を地中化するなどの対策をとることも可能だが、膨大な予算がかかり、電力料金に跳ね返る」(前出コンサルタント)
2016年の電力自由化のとき、電気の「地産地消」が叫ばれたが、その後、大手電力は再エネの送電線への接続を拒否するなど、露骨な新電力潰しにかかった。今回の法改正により、防災に強い関心がある自治体は、自前の防災予算で地域の配電システムを整備するだろう。自然災害が多発する日本は、大手電力に頼らず、防災のために電気の地産地消を進めなければならない。
(文=横山渉/ジャーナリスト)