北朝鮮は5月29日、今年だけで9度目になる弾道ミサイル発射を行った。すでに金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、実戦配備に向けて大量生産を指示している。
一連のミサイル発射のなかで、5月14日に発射された「火星12型」は高度2111kmまで上昇。大陸間弾道ミサイル(ICBM)並みに30分も飛行し、ナホトカ東南の日本海に落下した。これだけ長時間飛ぶミサイルが、想定された軌道を逸れて日本の国土に落下する懸念はないのだろうか。軍事ジャーナリストの田岡俊次氏に聞いた。
「軌道を逸れてではなく、日本を狙ってくる可能性があります。アメリカが北朝鮮を攻撃すれば、朝鮮戦争の再開になるので、北朝鮮としては日本にある米軍基地に向けて撃ってきます。同盟というのはそういうもの、一長一短だということが、日本人にはあまりピンときていません。アメリカとの同盟を強化さえすれば、平和というわけではない。リスクも大きいのです」
政府は都道府県に対して、北朝鮮のミサイルの飛来を想定した住民の避難訓練を実施するよう呼びかけ、それを受けて実施した自治体もある。ミサイルが飛んできたら、逃れることはできるのか。
「政府は、弾道ミサイル発射の警報が落下の4分前に出るかのように言っているが、これはまったくの誇大広告。これまでJアラートがミサイル発射情報を発したのはわずか2回。2012年12月12日と16年2月7日、人工衛星をテポドン2で打ち上げた時だけです。この時は、ロンドンの国際海事機関に、北朝鮮が発射の計画を通告。発射の日時や場所、第1段、第2段ロケットの落下予定海面も告知されていた。12年の時には発射の6分後に、16年の時には発射の4分後に、Jアラートがミサイル発射を伝えました。これは北朝鮮の通告を受けて、日本はイージス艦を出動させ、長距離レーダー、情報収集衛星などで必死に監視していたからです。通告のないミサイルの発射については、Jアラートはまったく役に立っていません。
『陸地に落ちてないから鳴らさなかった』という説明ですが、海上に落ちる場合は、海上保安庁がただちに航行警報を出すはずですが、それが早くて発射の13分後、14日のミサイルでも42分後でした。北朝鮮のミサイルは日本へは7~8分、長くて10分で到達するから、警報は落下した後に出ています。北朝鮮が狙うのは米軍基地なので、一番危ないのは海上自衛隊です。横須賀、佐世保、岩国、三沢、厚木と全部、米軍と一緒にいるからです。本来なら基地内に穴を掘って避難訓練するでしょうが、意味がないとわかっているので、やらない。それを一般国民にやりなさいというのは、おかしい。危機感を煽って、いろんな予算を取るとか、法律を通すとか、その宣伝活動みたいなものでしょう」(同)