5月29日付記事『ロシア、北朝鮮を実質支配でミサイル発射を主導か…中国とロシアに紛争の兆候も』では、北朝鮮をめぐる問題について、ロシア情勢に詳しい政治学者で筑波大学教授の中村逸郎氏の話をお伝えした。
中村氏によると、北朝鮮のミサイル発射はロシア主導で行われたものであり、金正恩(キム・ジョンウン)体制はウラジーミル・プーチン大統領の傀儡政権といっても過言ではないという。
北朝鮮情勢をめぐっては、アメリカのドナルド・トランプ大統領の動きも見逃せない。現在、トランプ大統領はいわゆる「ロシアゲート事件」に揺れているが、中村氏は「そもそも、トランプ政権を誕生させたのはロシアですよ」と語る。
「モスクワのクレムリン(旧ロシア帝国の宮殿)近くにリッツカールトンという超高級ホテルがあります。そこに2013年11月、トランプ、のちに選対本部長となるポール・マナフォート、外交政策アドバイザーとなるカーター・ペイジの3人が訪れます。プーチンが招いたのです。ロシア側から誰が出席したのかはわからないのですが、この3人とロシアの中枢が会っています。
そこで、プーチンは『トランプ、お前は大統領をやれ』と言った。ロシア側は『ヒラリー・クリントンおよび民主党に関する情報はすべて渡す』と約束し、トランプは多額の選挙資金ももらっています。14年のクリミア併合の前ですが、ロシアは人権問題で経済制裁を受けていました。プーチンとしては、トランプに大統領になってもらい、それを解除してほしいというのが狙いだったのでしょう」(中村氏)
16年のアメリカ大統領選挙では、ロシアによるサイバー攻撃が取り沙汰されているが、これは事実なのだろうか。
「当然、やっていますよ。イギリスの新聞『ガーディアン』などが報じていますし、アメリカでは周知の事実です。トランプ政権の中枢は、ほとんどがロシアとのパイプを持っています。国務長官のレックス・ティラーソンは、エクソンモービル会長のときにロシアの国営石油企業・ロスネフチと組んで北極海とサハリン北部の共同開発を行っています。彼は、ロシアへの経済制裁に反対しています」(同)
ロシアの思惑通りにトランプ政権が発足した後、世界の勢力図はどう変わったのか。
「中国とロシアの蜜月が崩されかけています。14年3月にロシアがクリミア半島を併合したこと対して、翌年のG7(先進7カ国)サミットで経済制裁が決定しました。その後、東方外交にシフトしたロシアは中国との関係を強化します。
しかし、大統領になったトランプが世界を見わたしたとき、『中国とロシアの仲がいいという状況は嫌だな』と考えた。もともと、トランプは為替操作などの問題もあり、中国が大嫌いです。ただ、彼が頭がいいのは、嫌いな奴を排除するのではなくて取り込むこと。それが4月の米中首脳会談につながるわけですが、その最中にアメリカはシリアにトマホークを撃ち込みました。
夕食を終えて、デザートのチョコレートケーキを食べているときに、トランプはその事実を習近平国家主席に伝えたのです。それを聞いた習は、首を縦に振ってうなずくことしかできなかった。それにブチ切れたプーチンは、ロシアのテレビで習やその関係者に対して『マヌケ者!』と罵っています。トランプは、シリア空爆によってロシアと中国の間に楔を打ち込んだのです」(同)